2024.06.13(木) |
収量が高く豆腐に利用できるダイズ新品種「そらひびき」
「そらたかく」東北南部~北陸、東海~九州地域のダイズ
生産量向上に貢献
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農研機構は収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配により、多収で豆腐に利用できるダイズ新品種「そらひびき」「そらたかく」を育成した。「そらひびき」(東北194号)は東北南部~北陸地域、「そらたかく」(四国46号)は東海~九州地域が栽培適地で、既存の品種と比較して「そらひびき」は2割以上、「そらたかく」は5割以上の多収が見込まれ、2023年11月に公表した
「そらみずき」「そらみのり」
1)に続いて、ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待される。
<概要>
ダイズの自給率は食品用に限っても2割程度であり、需要の多くを輸入に依存しているため、食料安全保障の観点から自給率向上は喫緊の課題だ。しかし、国産ダイズの収量は米国産ダイズと比べ半分程度と低いため、これを大幅に向上させる必要がある。一方、米国産ダイズは収量が多い反面タンパク質含有率が低い傾向にあり、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に優れません。
そこで農研機構は、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配により、多収で豆腐に利用できるダイズ品種「そらひびき」「そらたかく」を育成した。現地実証試験の結果から「そらひびき」は東北南部~北陸地域、「そらたかく」は東海~九州地域が栽培適地で既存の品種と比較して「そらひびき」は2割以上、「そらたかく」は5割以上の多収が見込まれる。
さらに「そらひびき」は草丈が低く倒れにくいという特徴をもっている。「そらたかく」の草丈は現行品種並だが、同じく倒れにくいという特徴のほかに、既存品種である「フクユタカ」と同等の 成熟期 2)であるため大豆-麦の二毛作体系への適性ももっている。また、両品種とも米国品種等に由来する葉焼病抵抗性や難裂莢性を有するという特徴をもっている。これらの品種の普及が進むことで、昨年公表した「そらみずき」「そらみのり」と共に、国産ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待できる。
<概要>
ダイズの自給率は食品用に限っても2割程度であり、需要の多くを輸入に依存しているため、食料安全保障の観点から自給率向上は喫緊の課題だ。しかし、国産ダイズの収量は米国産ダイズと比べ半分程度と低いため、これを大幅に向上させる必要がある。一方、米国産ダイズは収量が多い反面タンパク質含有率が低い傾向にあり、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に優れません。
そこで農研機構は、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配により、多収で豆腐に利用できるダイズ品種「そらひびき」「そらたかく」を育成した。現地実証試験の結果から「そらひびき」は東北南部~北陸地域、「そらたかく」は東海~九州地域が栽培適地で既存の品種と比較して「そらひびき」は2割以上、「そらたかく」は5割以上の多収が見込まれる。
さらに「そらひびき」は草丈が低く倒れにくいという特徴をもっている。「そらたかく」の草丈は現行品種並だが、同じく倒れにくいという特徴のほかに、既存品種である「フクユタカ」と同等の 成熟期 2)であるため大豆-麦の二毛作体系への適性ももっている。また、両品種とも米国品種等に由来する葉焼病抵抗性や難裂莢性を有するという特徴をもっている。これらの品種の普及が進むことで、昨年公表した「そらみずき」「そらみのり」と共に、国産ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待できる。

「そらひびき」と「そらたかく」の生産者ほ場における
現地実証試験での平均収量

「そらひびき」と「そらたかく」の草姿(尺の数値は10cm単位)
<関連情報>
予算 : 農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト(輸N4豆、大豆生産基盤強化のための極多収品種の育成)」
品種登録出願番号:そらひびき 第37244号(令和6年1月24日出願、令和6年4月22日出願公表)
お問い合わせ先など
研究推進責任者:農研機構東北農業研究センター所長 川口健太郎
同西日本農業研究センター所長 橘雅明
同作物研究部門所長 石本政男
研究担当者 : 「そらひびき」同東北農業研究センター 水田輪作研究領域グループ長補佐 南條洋平
「そらたかく」同西日本農業研究センター 中山間畑作園芸研究領域グループ長補佐
髙田吉丈
広報担当者 : 同東北農業研究センター広報チーム長 田村徳寿
日本農業研究センター広報チーム長 阿部弘実
<詳細情報>
開発の社会的背景
ダイズは油糧原料となるほか、食品用として豆腐、味噌、納豆など日本の伝統的な食品に加工される重要な作物だ。しかしながら、自給率は6~7%と需要の多くを輸入に依存し、油糧用はほぼ全量を、油糧用等を除く食品用に限っても8割程度を海外産で賄っている(農林水産省、大豆をめぐる事情令和6年)。
一方、世界のダイズの消費量が増加傾向にある中で、気象災害等により価格の変動幅が大きく我が国においても食料安全保障の観点から、ダイズの国内生産量の向上が喫緊の課題となっている。2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において、2030年度のダイズの生産努力目標は34万トンに設定されており、多収品種の育成や栽培技術•環境の改善等により単収を高め、国産ダイズの安定生産、安定供給を図ることが強く望まれている。
<研究の経緯>
米国のダイズは平均単収が340kg/10a(米国農務省、Production, Supply and Distribution)と高い水準にあるが、主に油糧用として育成された品種が栽培されており、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に影響するタンパク質含有率が一般的に低い傾向(文部科学省、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)にある。
対して日本のダイズは食品用、特に主用途である豆腐の加工適性が重視された優れた品種が育成されているが、平均単収は168kg/10a(農林水産省、令和5年産大豆(乾燥子実)の収穫量)と安定供給に向けて十分とはいえない水準となっている。このような状況を踏まえ、農研機構では豆腐等の加工適性に優れた日本の品種•系統と米国の極多収品種を交配して選抜を行うことにより、日本品種が有する優れた豆腐等への加工適性と米国品種が有する多収性を兼ね備えた新品種「そらひびき」「そらたかく」を育成した。
「そらひびき」は昨年、同様の観点で育成した多収品種として公表を行った「そらみずき」や「そらみのり」より早い成熟期が望まれる東北南部~北陸地域向け、「そらたかく」は、「そらみずき」より遅く「そらみのり」より早い成熟期が望まれる東海~九州地域向けの品種となっている。
新品種「そらひびき」「そらたかく」の特徴
【来歴】
・「そらひびき」は「サチユタカ」を種子親、米国品種「LD00-3309」を花粉親とする交配組合せから育成された。
・「そらたかく」は「たつまろ」を種子親、米国品種「Santee」を花粉親とする交配組合せから育成された。
【特徴】
・「そらひびき」および「そらたかく」はいずれも莢 さや付きが良く、生産者ほ場における現地実証試験では既存品種の「リュウホウ」あるいは「里のほほえみ」と比較して「そらひびき」は2割以上、同様に「フクユタカ」と比較して「そらたかく」は5割以上多収であり、全ての試験で比較品種を上回りまった。さらに「そらひびき」は草丈が低く倒れにくいという特徴をもっている「そらひびき」の草丈は現行品種並に高いですが、同じく倒れにくいという特徴をもっている( 表1)。
・「そらひびき」は東北南部~北陸地域、「そらたかく」は東海~九州地域が栽培適地( 表1)。
・「そらたかく」の成熟期は既存品種「フクユタカ」と同等であり、大豆-麦の二毛作体系への適
性をもっている( 表1)。
・「そらひびき」および「そらたかく」はいずれも 裂莢性 れっきょうせい 3)は"難"であり、 葉焼病 はやけびょう 4)に対しても"抵抗性"です( 表2)。
・ へそ 5)の色は「そらひびき」、「そらたかく」ともに黄( 図1)。
・育成地や現地試験の生産物について第三者検査機関による豆腐の加工試験に供試したところ、「フクユタカ」と比較した場合( 表3)、「そらひびき」のタンパク質含有率はやや低く、 豆乳抽出率 6)および 豆腐の破断強度 はだんきょうど 7)は同等となった。「そらたかく」では、それぞれ、やや低い、同等、やや低い値となったが、両品種とも豆腐への加工適性が優れると検査機関から評価された。
【その他の基本情報•栽培上の留意点】
・「そらひびき」は ダイズモザイクウイルス 8)のA~Eの全ての系統に対して感受性ですが、「そらたかく」はA、A2、B系統には抵抗性(C、D、E系統に対して感受性)。また「そらひびき」「そらたかく」は ダイズシストセンチュウ 9)に対して感受性。そのためこれらの被害履歴のあるほ場での作付けを避けて下さい。
品種の名前の由来
「そらひびき」は倒れずに"空"を向いて育った茎に多くの莢が実ってカラカラと揺れる音が"響き"渡る様子を、「そらたかく」は"空"に向かってまっすぐ"高く"伸びるダイズの姿をイメージして、それぞれ命名した。また"そら"には空のように高い収量を目指して育成した品種である意味も含まれている。
今後の予定•期待
「そらひびき」は東北南部~北陸地域を中心に、「そらたかく」は東海~九州地域を中心に普及を進めている。両品種は既存品種と比較して約2割以上の多収が見込まれることから、普及が進むことで国産ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待される。なお、両品種の原種苗については以下からお問い合わせ下さい。
原種苗入手先に関するお問い合わせ(生産者向け)
「そらひびき」農研機構東北農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
「そらたかく」農研機構西日本農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
利用許諾契約に関するお問い合わせ(種苗会社向け)
下記のメールフォームでお問い合わせ下さい。
農研機構HP【品種についてのお問い合わせ】
なお、品種の利用については以下もご参照下さい。農研機構HP【品種の利用方法】
<用語の解説>
「そらみずき」「そらみのり」
「そらひびき」「そらたかく」と同様、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配に由来する品種として、昨年、農研機構が先行して公表したダイズ新品種。「そらひびき」「そらたかく」と同様、多収で豆腐に利用できる。「そらみずき」は関東~近畿地域、「そらみのり」は東海~九州地域を栽培適地としている。
成熟期(せいじゅくき)
全ての莢のうち80~90%が変色し、完熟した時期を指す(農林水産省、農林水産植物種類別審査基準)。収穫作業を計画する上で、重要な目安となる。
裂莢性(れっきょうせい)
成熟した莢が自然に開く(裂開する)性質を指す。裂莢性が"易"の品種は、成熟後に高温乾燥状態が続くと、自然に莢が開いて、莢内の種子がこぼれ落ちてしまうので、収穫ロスの原因になる。葉焼病(はやけびょう)
細菌(Xanthomonas axonopodis pv.glycines)によって引き起こされる病害で、温暖化に伴い発生が増えてきている。この細菌がダイズに感染すると葉に斑点性の病斑が現れ、症状が激しくなると葉が早期に落ち、収穫物の粒大や収量が減少するなどの影響が出る。
へそ
種子が莢とつながる部分。灰、黄、緑、淡褐、暗褐、淡黒、黒 の各色に分類されます(農林水産省、農林水産植物種類別審査基準)。
豆乳抽出率(とうにゅうちゅうしゅつりつ)
豆腐を製造する際の製品歩留まりを表す指標の1つで、抽出率が高いほど豆腐加工適性が高いことを示す。
豆腐の破断強度(はだんきょうど)
豆腐に力を加えていき、豆腐が壊れるまでに要した力の強さで、豆腐の硬さの指標として使われている。一般的に破断強度は高い方が良いとされており、タンパク質含有率が高いほど破断強度は高くなる傾向にある。
ダイズモザイクウイルス
ダイズ等のマメ科植物に感染するウイルス。ダイズがこのウイルスに感染するとダイズモザイク病を引き起こし、葉にモザイク症状やえそ症状が現れるとともに、種皮に褐色や黒色の斑紋が現れ、収量や収穫物の品質に影響が出る。このウイルスは、A、A2、B、C、DおよびE系統の6系統が国内において報告されており、「そらひびき」はいずれの系統にも感受性、「そらたかく」はA、A2およびB系統に抵抗性、その他の系統に感受性です。
ダイズシストセンチュウ
ダイズ等のマメ科植物の根に寄生するセンチュウ。寄生された植物体は生育が低下して黄化症状が現れるとともに、根に本センチュウの卵が詰まった黄色いシストが多数形成される。シストは土壌中で数年以上生存し、翌年以降の感染源になる。センチュウは形態的判別が難しいですが、特定の品種に対して病原性が異なる個体群が存在しており、これをレースという。レースは16種類確認されており、国内で発生する多くはレース3だが、「そらひびき」および「そらたかく」はレース3に対して感受性だ。
参考図
表1 生産者ほ場における現地実証試験成績
注1)いずれの試験も実栽培規模(約30a)で、子実重はコンバイン収穫により評価した。
注2)倒伏は無、微、少、中、多、甚の6段階にて評価した。
注3)子実重の標準対比のうち、赤字で示したものは標準対比120%(農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト」の設定目標)以上であった。
表2 裂莢性と葉焼病抵抗性
注1)室内での加熱試験(60℃で3時間)による裂莢率から判定した。
注2)DNAマーカーを用いた多型調査から判定した。
カラースケールは1.0cm×1.0cm
図1 「そらひびき」と「そらたかく」の子実の外観(2023年産)
上段左から「そらひびき」「LD00-3309」(花粉親)「サチユタカ」(種子親)「里のほほえみ」(比較)
表3 「そらひびき」と「そらたかく」を原料とした豆腐の加工適性試験結果
注)第三者検査機関による試験結果を示した。
予算 : 農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト(輸N4豆、大豆生産基盤強化のための極多収品種の育成)」
品種登録出願番号:そらひびき 第37244号(令和6年1月24日出願、令和6年4月22日出願公表)
お問い合わせ先など
研究推進責任者:農研機構東北農業研究センター所長 川口健太郎
同西日本農業研究センター所長 橘雅明
同作物研究部門所長 石本政男
研究担当者 : 「そらひびき」同東北農業研究センター 水田輪作研究領域グループ長補佐 南條洋平
「そらたかく」同西日本農業研究センター 中山間畑作園芸研究領域グループ長補佐
髙田吉丈
広報担当者 : 同東北農業研究センター広報チーム長 田村徳寿
日本農業研究センター広報チーム長 阿部弘実
<詳細情報>
開発の社会的背景
ダイズは油糧原料となるほか、食品用として豆腐、味噌、納豆など日本の伝統的な食品に加工される重要な作物だ。しかしながら、自給率は6~7%と需要の多くを輸入に依存し、油糧用はほぼ全量を、油糧用等を除く食品用に限っても8割程度を海外産で賄っている(農林水産省、大豆をめぐる事情令和6年)。
一方、世界のダイズの消費量が増加傾向にある中で、気象災害等により価格の変動幅が大きく我が国においても食料安全保障の観点から、ダイズの国内生産量の向上が喫緊の課題となっている。2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において、2030年度のダイズの生産努力目標は34万トンに設定されており、多収品種の育成や栽培技術•環境の改善等により単収を高め、国産ダイズの安定生産、安定供給を図ることが強く望まれている。
<研究の経緯>
米国のダイズは平均単収が340kg/10a(米国農務省、Production, Supply and Distribution)と高い水準にあるが、主に油糧用として育成された品種が栽培されており、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に影響するタンパク質含有率が一般的に低い傾向(文部科学省、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)にある。
対して日本のダイズは食品用、特に主用途である豆腐の加工適性が重視された優れた品種が育成されているが、平均単収は168kg/10a(農林水産省、令和5年産大豆(乾燥子実)の収穫量)と安定供給に向けて十分とはいえない水準となっている。このような状況を踏まえ、農研機構では豆腐等の加工適性に優れた日本の品種•系統と米国の極多収品種を交配して選抜を行うことにより、日本品種が有する優れた豆腐等への加工適性と米国品種が有する多収性を兼ね備えた新品種「そらひびき」「そらたかく」を育成した。
「そらひびき」は昨年、同様の観点で育成した多収品種として公表を行った「そらみずき」や「そらみのり」より早い成熟期が望まれる東北南部~北陸地域向け、「そらたかく」は、「そらみずき」より遅く「そらみのり」より早い成熟期が望まれる東海~九州地域向けの品種となっている。
新品種「そらひびき」「そらたかく」の特徴
【来歴】
・「そらひびき」は「サチユタカ」を種子親、米国品種「LD00-3309」を花粉親とする交配組合せから育成された。
・「そらたかく」は「たつまろ」を種子親、米国品種「Santee」を花粉親とする交配組合せから育成された。
【特徴】
・「そらひびき」および「そらたかく」はいずれも莢 さや付きが良く、生産者ほ場における現地実証試験では既存品種の「リュウホウ」あるいは「里のほほえみ」と比較して「そらひびき」は2割以上、同様に「フクユタカ」と比較して「そらたかく」は5割以上多収であり、全ての試験で比較品種を上回りまった。さらに「そらひびき」は草丈が低く倒れにくいという特徴をもっている「そらひびき」の草丈は現行品種並に高いですが、同じく倒れにくいという特徴をもっている( 表1)。
・「そらひびき」は東北南部~北陸地域、「そらたかく」は東海~九州地域が栽培適地( 表1)。
・「そらたかく」の成熟期は既存品種「フクユタカ」と同等であり、大豆-麦の二毛作体系への適
性をもっている( 表1)。
・「そらひびき」および「そらたかく」はいずれも 裂莢性 れっきょうせい 3)は"難"であり、 葉焼病 はやけびょう 4)に対しても"抵抗性"です( 表2)。
・ へそ 5)の色は「そらひびき」、「そらたかく」ともに黄( 図1)。
・育成地や現地試験の生産物について第三者検査機関による豆腐の加工試験に供試したところ、「フクユタカ」と比較した場合( 表3)、「そらひびき」のタンパク質含有率はやや低く、 豆乳抽出率 6)および 豆腐の破断強度 はだんきょうど 7)は同等となった。「そらたかく」では、それぞれ、やや低い、同等、やや低い値となったが、両品種とも豆腐への加工適性が優れると検査機関から評価された。
【その他の基本情報•栽培上の留意点】
・「そらひびき」は ダイズモザイクウイルス 8)のA~Eの全ての系統に対して感受性ですが、「そらたかく」はA、A2、B系統には抵抗性(C、D、E系統に対して感受性)。また「そらひびき」「そらたかく」は ダイズシストセンチュウ 9)に対して感受性。そのためこれらの被害履歴のあるほ場での作付けを避けて下さい。
品種の名前の由来
「そらひびき」は倒れずに"空"を向いて育った茎に多くの莢が実ってカラカラと揺れる音が"響き"渡る様子を、「そらたかく」は"空"に向かってまっすぐ"高く"伸びるダイズの姿をイメージして、それぞれ命名した。また"そら"には空のように高い収量を目指して育成した品種である意味も含まれている。
今後の予定•期待
「そらひびき」は東北南部~北陸地域を中心に、「そらたかく」は東海~九州地域を中心に普及を進めている。両品種は既存品種と比較して約2割以上の多収が見込まれることから、普及が進むことで国産ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待される。なお、両品種の原種苗については以下からお問い合わせ下さい。
原種苗入手先に関するお問い合わせ(生産者向け)
「そらひびき」農研機構東北農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
「そらたかく」農研機構西日本農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
利用許諾契約に関するお問い合わせ(種苗会社向け)
下記のメールフォームでお問い合わせ下さい。
農研機構HP【品種についてのお問い合わせ】
なお、品種の利用については以下もご参照下さい。農研機構HP【品種の利用方法】
<用語の解説>
「そらみずき」「そらみのり」
「そらひびき」「そらたかく」と同様、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配に由来する品種として、昨年、農研機構が先行して公表したダイズ新品種。「そらひびき」「そらたかく」と同様、多収で豆腐に利用できる。「そらみずき」は関東~近畿地域、「そらみのり」は東海~九州地域を栽培適地としている。
成熟期(せいじゅくき)
全ての莢のうち80~90%が変色し、完熟した時期を指す(農林水産省、農林水産植物種類別審査基準)。収穫作業を計画する上で、重要な目安となる。
裂莢性(れっきょうせい)
成熟した莢が自然に開く(裂開する)性質を指す。裂莢性が"易"の品種は、成熟後に高温乾燥状態が続くと、自然に莢が開いて、莢内の種子がこぼれ落ちてしまうので、収穫ロスの原因になる。葉焼病(はやけびょう)
細菌(Xanthomonas axonopodis pv.glycines)によって引き起こされる病害で、温暖化に伴い発生が増えてきている。この細菌がダイズに感染すると葉に斑点性の病斑が現れ、症状が激しくなると葉が早期に落ち、収穫物の粒大や収量が減少するなどの影響が出る。
へそ
種子が莢とつながる部分。灰、黄、緑、淡褐、暗褐、淡黒、黒 の各色に分類されます(農林水産省、農林水産植物種類別審査基準)。
豆乳抽出率(とうにゅうちゅうしゅつりつ)
豆腐を製造する際の製品歩留まりを表す指標の1つで、抽出率が高いほど豆腐加工適性が高いことを示す。
豆腐の破断強度(はだんきょうど)
豆腐に力を加えていき、豆腐が壊れるまでに要した力の強さで、豆腐の硬さの指標として使われている。一般的に破断強度は高い方が良いとされており、タンパク質含有率が高いほど破断強度は高くなる傾向にある。
ダイズモザイクウイルス
ダイズ等のマメ科植物に感染するウイルス。ダイズがこのウイルスに感染するとダイズモザイク病を引き起こし、葉にモザイク症状やえそ症状が現れるとともに、種皮に褐色や黒色の斑紋が現れ、収量や収穫物の品質に影響が出る。このウイルスは、A、A2、B、C、DおよびE系統の6系統が国内において報告されており、「そらひびき」はいずれの系統にも感受性、「そらたかく」はA、A2およびB系統に抵抗性、その他の系統に感受性です。
ダイズシストセンチュウ
ダイズ等のマメ科植物の根に寄生するセンチュウ。寄生された植物体は生育が低下して黄化症状が現れるとともに、根に本センチュウの卵が詰まった黄色いシストが多数形成される。シストは土壌中で数年以上生存し、翌年以降の感染源になる。センチュウは形態的判別が難しいですが、特定の品種に対して病原性が異なる個体群が存在しており、これをレースという。レースは16種類確認されており、国内で発生する多くはレース3だが、「そらひびき」および「そらたかく」はレース3に対して感受性だ。
参考図
表1 生産者ほ場における現地実証試験成績

注1)いずれの試験も実栽培規模(約30a)で、子実重はコンバイン収穫により評価した。
注2)倒伏は無、微、少、中、多、甚の6段階にて評価した。
注3)子実重の標準対比のうち、赤字で示したものは標準対比120%(農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト」の設定目標)以上であった。
表2 裂莢性と葉焼病抵抗性

注1)室内での加熱試験(60℃で3時間)による裂莢率から判定した。
注2)DNAマーカーを用いた多型調査から判定した。

カラースケールは1.0cm×1.0cm
図1 「そらひびき」と「そらたかく」の子実の外観(2023年産)
上段左から「そらひびき」「LD00-3309」(花粉親)「サチユタカ」(種子親)「里のほほえみ」(比較)
表3 「そらひびき」と「そらたかく」を原料とした豆腐の加工適性試験結果

注)第三者検査機関による試験結果を示した。