2021.01.20(水) |
ダッタンソバの「ふすま」は「ダッタンソバ粉」の 約5倍のルチンを含む。ルチンを減らすことなく 焙煎する方法も開発(農研機構) |
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農研機構は、
ダッタンソバ
1)粉製造時に生じる「
ふすま
2)」に極めて多くの
ルチン
3)が含まれることを見いだした。また、ふすまを焙煎する際、色彩値を指標として、ルチンの含有率を落とさずに焙煎する調製法を確立した。この研究成果で得られた焙煎ダッタンソバふすまを用いることで、ルチン高含有の飲料や食品の開発が期待できる。
ダッタンソバは機能性成分であるルチンを子実中に多く含む作物として近年注目されており、ダッタンソバ粉を材料として製造された麺類等の食品がすでに販売されている。ダッタンソバ粉は子実を粉砕して得られるが、その際に生じるソバ粉として使われない粒径の比較的大きな画分を「ふすま」と呼んでいる。ダッタンソバふすまは大部分が破棄されており、有効利用が求められている。
農研機構はダッタンソバふすまが、ダッタンソバ粉の約5倍量のルチンを含む画期的なルチン高含有食素材であることを見いだした。また、雑菌が多く保存性に劣るダッタンソバふすまから、色彩値を測定しながら焙煎加工することにより、殺菌処理されたルチン高含有の焙煎ダッタンソバふすまを得る方法も確立した。本研究成果は、日本食品科学工学会の英文誌「Food Science and Technology Research」に発表され、特許としても登録済みだ。今後は、焙煎ダッタンソバふすまを用いて、ルチン高含有の飲料や食品を開発することを目指す。
<関連情報>
予算 : 農林水産省補正予算「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」
特許 : 第6679126号
※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業•食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)。
問い合わせ先など
研究推進責任者 : 農研機構北海道農業研究センター所長 安東郁男
研究担当者 : 同 畑作物開発利用研究領域グループ長 野田高弘
広報担当者 : 同 広報チーム長 佐藤豪
<詳細情報>
研究の経緯
生活習慣病やこれに伴う医療費の増大が社会問題になっているため、日常摂取する食品に含まれている機能性成分を有効に生かして、健康を維持することが強く望まれている。このような背景から食品製造業の中でも、高付加価値化を求める業者のニーズに基づき機能性成分を多く含む加工品の開発が求められている。
ダッタンソバは、近年、特産作物として各地で生産され、2017年において全国の作付面積は474ha、収穫量は389tで、特に北海道(国産の約8割を生産、その大半はオホーツク管内)や長野県で栽培が盛んとなっている。ダッタンソバの子実には、機能性成分であるルチンが普通ソバと比べて100倍程度含まれている。ダッタンソバは一般的にはソバ粉の状態で流通していて、ソバ粉からルチン高含有の麺類等の食品が製造される。苦みが少なくルチンを多く含むソバ「満天きらり」を5割配合した麺80グラム(ルチン318mg含有)を12週間継続摂取したヒト介入試験において、摂取していない群と比較して、4週間目に体脂肪率の低減が認められている( 農研機構 研究成果情報)。
ダッタンソバ粉は、子実を粉砕して篩(ふるい)を通った部分に該当するが、その際に篩を通らずに残ったもののうち、ソバ殻等の大きな物を除いた粉状の画分は、ふすま(さな粉)と呼ばれている( 図1)。ダッタンソバふすまは、ソバ粉製造過程で産出され、一部では家畜用飼料として利用されているが、大部分は廃棄物として処理されている。
上記背景を受け、農研機構ではダッタンソバふすまの有効利用に向け、成分特性を評価し、ダッタンソバふすまにはダッタンソバ粉の約5倍量のルチンが含まれることを明らかにした。しかし、ダッタンソバふすまは、雑菌が多いため保存性に劣り、そのままでは飲食用としては不適だ。そこで、ダッタンソバふすまのルチン含有を維持したままで殺菌効果のある加工法として、焙煎について検討した。
研究の内容•意義
1.ダッタンソバふすまが、乾物重100g当たり5911±222mg(ダッタンソバ粉の約5倍量)のルチンを含む画期的なルチン高含有食素材であることを明らかにした( 図1)。
2.ダッタンソバふすまの焙煎加工試験(160~240°C、10~30分)を行った結果、160~230°C、10分及び160°C、20分の焙煎条件下では、ルチン含量が90%以上維持されることが判明した。色彩色差計で測定したL* エルスター 値(明るさ)、b* ビースター値(青色から黄色にかけての色味)は、焙煎前ではそれぞれ58.9±0.4、19.3±1.3であり、焙煎中にルチンが分解されるにしたがって低下し、ルチン含量とL*値、b*値との間に相関性が認められた( 図2)。
3.色彩値を測定することで、焙煎中のルチンの減少程度を簡便に推定でき、殺菌処理されたルチン高含有の焙煎ダッタンソバふすまを調製できることを明らかにした。
今後の予定•期待
本研究で得られた焙煎ダッタンソバふすまは、これまで知られている食品素材にはないレベルの高濃度ルチンを含むことが明確となり、機能性食品素材としての利用が期待できる。また、ダッタンソバ粉の製造の際に生じる未利用資源であるふすまの有効利用が可能になれば、ダッタンソバ生産者の所得向上につながり、北海道オホーツク管内をはじめとしたダッタンソバ生産地においても経済効果が見込まれる。
<用語の解説 >
ダッタンソバ
タデ科・ソバ属の栽培植物の一種で、普通ソバとは異なり自殖性(自分の花粉で受精し、実を結ぶことができる)作物であるため、寒さで訪花昆虫の活動が制限される北海道のオホーツク沿岸などでの生育が可能だ。
ふすま
穀類•雑穀類の外皮(表皮等)の部分に相当し、食物繊維が多く含まれる。
ルチン
ポリフェノール(フラボノイド)の一種で、抗酸化性を有することが知られている。穀類•雑穀類ではソバ属植物のみが含有するとされている。
発表論文
1.Takahiro Noda, Koji Ishiguro, Tatsuro Suzuki, Toshikazu Morishita (2020). Relationship between color change and rutin content in roasted Tartary buckwheat bran. Food Science and Technology Research, Vol.26, 709-716.
参考図
図1ダッタンソバ粉製造時に得られるふすま(さな粉)のルチン含量
図2焙煎ダッタンソバふすまのルチン含量と色彩値(L*値、b*値)との相関性
ダッタンソバは機能性成分であるルチンを子実中に多く含む作物として近年注目されており、ダッタンソバ粉を材料として製造された麺類等の食品がすでに販売されている。ダッタンソバ粉は子実を粉砕して得られるが、その際に生じるソバ粉として使われない粒径の比較的大きな画分を「ふすま」と呼んでいる。ダッタンソバふすまは大部分が破棄されており、有効利用が求められている。
農研機構はダッタンソバふすまが、ダッタンソバ粉の約5倍量のルチンを含む画期的なルチン高含有食素材であることを見いだした。また、雑菌が多く保存性に劣るダッタンソバふすまから、色彩値を測定しながら焙煎加工することにより、殺菌処理されたルチン高含有の焙煎ダッタンソバふすまを得る方法も確立した。本研究成果は、日本食品科学工学会の英文誌「Food Science and Technology Research」に発表され、特許としても登録済みだ。今後は、焙煎ダッタンソバふすまを用いて、ルチン高含有の飲料や食品を開発することを目指す。
<関連情報>
予算 : 農林水産省補正予算「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」
特許 : 第6679126号
※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業•食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)。
問い合わせ先など
研究推進責任者 : 農研機構北海道農業研究センター所長 安東郁男
研究担当者 : 同 畑作物開発利用研究領域グループ長 野田高弘
広報担当者 : 同 広報チーム長 佐藤豪
<詳細情報>
研究の経緯
生活習慣病やこれに伴う医療費の増大が社会問題になっているため、日常摂取する食品に含まれている機能性成分を有効に生かして、健康を維持することが強く望まれている。このような背景から食品製造業の中でも、高付加価値化を求める業者のニーズに基づき機能性成分を多く含む加工品の開発が求められている。
ダッタンソバは、近年、特産作物として各地で生産され、2017年において全国の作付面積は474ha、収穫量は389tで、特に北海道(国産の約8割を生産、その大半はオホーツク管内)や長野県で栽培が盛んとなっている。ダッタンソバの子実には、機能性成分であるルチンが普通ソバと比べて100倍程度含まれている。ダッタンソバは一般的にはソバ粉の状態で流通していて、ソバ粉からルチン高含有の麺類等の食品が製造される。苦みが少なくルチンを多く含むソバ「満天きらり」を5割配合した麺80グラム(ルチン318mg含有)を12週間継続摂取したヒト介入試験において、摂取していない群と比較して、4週間目に体脂肪率の低減が認められている( 農研機構 研究成果情報)。
ダッタンソバ粉は、子実を粉砕して篩(ふるい)を通った部分に該当するが、その際に篩を通らずに残ったもののうち、ソバ殻等の大きな物を除いた粉状の画分は、ふすま(さな粉)と呼ばれている( 図1)。ダッタンソバふすまは、ソバ粉製造過程で産出され、一部では家畜用飼料として利用されているが、大部分は廃棄物として処理されている。
上記背景を受け、農研機構ではダッタンソバふすまの有効利用に向け、成分特性を評価し、ダッタンソバふすまにはダッタンソバ粉の約5倍量のルチンが含まれることを明らかにした。しかし、ダッタンソバふすまは、雑菌が多いため保存性に劣り、そのままでは飲食用としては不適だ。そこで、ダッタンソバふすまのルチン含有を維持したままで殺菌効果のある加工法として、焙煎について検討した。
研究の内容•意義
1.ダッタンソバふすまが、乾物重100g当たり5911±222mg(ダッタンソバ粉の約5倍量)のルチンを含む画期的なルチン高含有食素材であることを明らかにした( 図1)。
2.ダッタンソバふすまの焙煎加工試験(160~240°C、10~30分)を行った結果、160~230°C、10分及び160°C、20分の焙煎条件下では、ルチン含量が90%以上維持されることが判明した。色彩色差計で測定したL* エルスター 値(明るさ)、b* ビースター値(青色から黄色にかけての色味)は、焙煎前ではそれぞれ58.9±0.4、19.3±1.3であり、焙煎中にルチンが分解されるにしたがって低下し、ルチン含量とL*値、b*値との間に相関性が認められた( 図2)。
3.色彩値を測定することで、焙煎中のルチンの減少程度を簡便に推定でき、殺菌処理されたルチン高含有の焙煎ダッタンソバふすまを調製できることを明らかにした。
今後の予定•期待
本研究で得られた焙煎ダッタンソバふすまは、これまで知られている食品素材にはないレベルの高濃度ルチンを含むことが明確となり、機能性食品素材としての利用が期待できる。また、ダッタンソバ粉の製造の際に生じる未利用資源であるふすまの有効利用が可能になれば、ダッタンソバ生産者の所得向上につながり、北海道オホーツク管内をはじめとしたダッタンソバ生産地においても経済効果が見込まれる。
<用語の解説 >
ダッタンソバ
タデ科・ソバ属の栽培植物の一種で、普通ソバとは異なり自殖性(自分の花粉で受精し、実を結ぶことができる)作物であるため、寒さで訪花昆虫の活動が制限される北海道のオホーツク沿岸などでの生育が可能だ。
ふすま
穀類•雑穀類の外皮(表皮等)の部分に相当し、食物繊維が多く含まれる。
ルチン
ポリフェノール(フラボノイド)の一種で、抗酸化性を有することが知られている。穀類•雑穀類ではソバ属植物のみが含有するとされている。
発表論文
1.Takahiro Noda, Koji Ishiguro, Tatsuro Suzuki, Toshikazu Morishita (2020). Relationship between color change and rutin content in roasted Tartary buckwheat bran. Food Science and Technology Research, Vol.26, 709-716.
参考図
図1ダッタンソバ粉製造時に得られるふすま(さな粉)のルチン含量
図2焙煎ダッタンソバふすまのルチン含量と色彩値(L*値、b*値)との相関性