2021.01.14(木)

水田のカリ肥料を半分~ゼロに減らすための

「水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正

施用指針」(農研機構)

   農研機構は、稲の収量や土壌中のカリ量を維持しつつ、水田で使用するカリ肥料を標準量の半分またはゼロに減らすための条件を明らかにし、施肥指針マニュアル「水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針」にまとめ、本日公開した。この研究成果は国内の水田に広く適用でき、水稲作での肥料コストの低減に役立つ。
   その骨子は「一定の条件を満たす水田ではカリ肥料を標準量の半分またはゼロにできる」というものだ。この指針を適用してカリ肥料を10アールあたり3kg減らした場合、肥料コストを10アールあたり1,056円節減することができる。
   肥料の三要素の一つであるカリは全量を輸入に依存しており、国際価格は高値基調にある。水稲作では通常10アールあたり8~11kg程度のカリが施肥される。しかし、施肥量がこれより少ない、または無施肥の水田でも稲が問題なく生育することも多く、カリを適正に減肥するための指針の策定が望まれていた。
   農研機構は農林水産省の委託プロジェクト研究で山形県、新潟県、三重県、宮崎県、鹿児島県と連携し、カリの施肥を減らした水田での稲の生育とカリの収支(水田への出入りの量)を調査した。その結果、稲わらが還元されつつ、 交換態カリ 1)量などが一定の条件を満たす水田では、カリの施肥を標準量の半分にしても収量は減らず、また土壌のカリも収支がマイナスにならずに維持されることを明らかにした。
   さらに、この条件の水田に牛ふん堆肥が10アールあたり1t以上施用されていれば、その年のカリ肥料はゼロにしても問題ないことも示した。この指針は国内の水田に広く適用でき、生産コスト削減と食料の安定供給に貢献すると考えられる。
※本成果で示されたカリ施肥に関する指針は、放射性セシウムの吸収抑制を考慮したものではない。放射性セシウムを吸収するおそれのある地域では、自治体等の吸収抑制対策に従ってください。
マニュアルURL
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/137697.html
関連情報
予算:農林水産省委託プロジェクト研究「生産コストの削減に向けた効率的かつ効果的な施肥技術の開発」
問い合わせ先
研究推進責任者 : 農研機構中央農業研究センター所長 白川隆
研究担当者 : 農研機構農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域(前中央農業研究センター 土壌肥料研究領域)久保寺秀夫
広報担当者 : 農研機構中央農業研究センター 広報チーム長 谷脇浩子
 
<詳細情報>
   開発の社会的背景カリは窒素•リン酸とならぶ植物の三大養分である。水田では10アールあたり8~11kg程度がカリの標準施肥量とされるが、これより少ない施肥や無施肥の水田でも稲が問題なく育つ場合も多いことが知られている。
   カリ肥料の原料となる鉱石は日本では産出されず全量を輸入に依存している。カリ肥料は2008年に国際価格の急騰を受けて値上がりした後、一旦は落ち着いたものの、世界的な需要拡大を背景に今後も高値基調での推移が予想されている。そのためカリ肥料を削減する技術の開発は、生産コストの削減と共に食料安定供給の上でも重要だ。
<研究の経緯>
   上記の背景を踏まえ、農林水産省の委託プロジェクト研究によって水稲作でのカリ肥料を減らすための研究が行われた。この研究では、カリ肥料を減らした水田で4年以上にわたり稲の生育を調べると共に、肥料だけでなく灌漑水や稲わら、堆肥などを含めたカリの収支(水田への出入りの量)を詳しく調べた( 図1)。
   そして土壌の種類、稲わらの処理などが一定の条件を満たす場合は、カリ肥料を通常の半分またはゼロに減らしても稲が問題なく育ち、また水田のカリ収支がマイナスにならず維持されることを明らかにした。
<研究成果の内容と経済効果>
【カリ減肥の指針】
   上記の研究結果から策定したカリ減肥の指針の概略( 図2)は次のとおりだ。
•土壌の種類が「 低地土 2)」で、一定の性質(砂質の土壌でないこと、土壌中の交換態カリが20 mg/100g以上であること)を満たし、収穫後の稲わらを持ち出さずにすき込んでいる水田ではカリ肥料を標準量の半分に減らせる。
•上記に該当する水田で、牛ふん堆肥が10アールあたり1t以上入れられていれば、その年のカリ肥料はゼロにできる。
   この指針はカリ肥料を極限まで減らすことを目指したものではなく、カリ欠乏による生育不良の問題を起こさないことを最重視して慎重に策定したものだ。そのためこの指針は水稲作で安心して広く使っていただけるものと考えている。指針の骨子を下記の 発表論文1(施肥指針マニュアル)3に、また指針の導き方や関連情報を 発表論文2に示している。
※本成果で示されたカリ施肥に関する指針は、放射性セシウムの吸収抑制を考慮したものではない。放射性セシウムを吸収するおそれのある地域では、自治体等の吸収抑制対策に従ってください。
【肥料コスト削減効果】
   国内の水田のうち3割程度(約80万ヘクタール)が上記の1)に該当し、カリ肥料の半減が可能であると推定される。カリを10アールあたり6kg施肥している水田で肥料を半減させた場合、2018年の肥料価格から計算すると10アールあたり1,056円のコスト低減となる。これはもともとの施肥量が少ない水田での見積もり額だが、施肥量が多い水田(半減の幅も大きい)や、肥料価格が高騰している場合にはコスト削減効果がさらに大きくなる。
<用語の解説>
交換態カリ
   粘土や腐植が持つ荷電によって土壌中に保持されているカリ。土壌診断では交換態カリの量を指標に、土壌中のカリ量が適正であるかを判断する。
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低地土
   沖積堆積物(川などが運んだ母材)からなる土壌で、主に河川周辺に分布し、日本の水田の約7割を占める。
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<発表論文
1.水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針 ~低地土の水田に広く適用できるカリ減肥の指針~(農研機構中央農業研究センター刊)
2.水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針 別冊:水稲カリ減肥指針の策定に関する資料集(農研機構中央農業研究センター刊)
3.水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針(2019年度農研機構普及成果情報)
 
<参考図>

図1. 水田のカリ収支の模式図
   稲わらを水田に還元し、標準量の半量(ここでは10アールあたり3 kgを想定)を施肥することで、(1)~(6)のようにカリの収支は±0となる((1)+(2)+(3)=(4)+(5)+(6))。さらに牛ふん堆肥を10あたり1t施用する場合((7))、収支は10アールあたり10 kg以上のプラスになる。

図2. カリ減肥可能性判定のフローチャート
   土壌が「低地土」であるかは農研機構がWebで公開している「インベントリー土壌図」や「e土壌図II」で判定できる。土性(粒子の細かさ)は手触りで、CECや交換態カリ量は土壌診断結果から判定する。なお放射性セシウム対策などカリの施用が求められる状況にある水田は、本指針の適用外です。