集約型農業で、大豆•小麦の生産も…
14.05.16(金)
「平成25年4月15日、16日に天皇皇后両陛下が初めての「私的」な御旅行で長野県に行幸啓になり、15日に千曲市を訪れ、あんずの里スケッチパークでのご散策と長野県立歴史館をご見学なされた。既にあんずの里スケッチパークのあんずの花は満開の時期を過ぎ、枝にわずかにピンクの花びらを残すだけの状態でしたが、両陛下は地元農家から品種改良の苦労や栽培方法の説明を熱心にお聞きになられ、冷蔵庫で保存し開花を調整した満開の枝をご覧になり春の散策を楽しまれた…と報道されていた記事は記憶に新しい。
その千曲市若宮に農業生産法人、六次産業認定事業者の(株)AFT杏宝園がある。ご承知の通り千曲市は杏の生産量が全国一位、中でもこの杏宝園が一番生産量の多い農園である。参考までに六次産業とは農業や水産業などの第一次産業が食品加工•流通販売にも業務展開する経営形態を六次産業と呼び、農業経済学者の今村奈良臣氏が提唱した造語である。
同社と農園を運営する代表者は髙松義久氏(56)。個人の農家として24年間営み、平成23年3月に法人を設立し、助成金•補助金を使って杏生産中心に従来農業の規模拡大、人手確保、六次産業参入、販路拡大を目指した。当初の売上げは800万円程(杏、プルーン含めた農地1.5町歩)だったが、現在は麦と大豆の生産を含めて1億5千万円を見込めるようになって来た。
現在、杏宝園で栽培している杏は3.5町歩、収穫できるのは2町歩あり、「昭和」「平和」「信大実」「信月」など5品種を中心に12種類を栽培している。杏は一反歩の樹木数が約33本で2トン収穫できる。杏の大きい実で100㌘、小さい実で30㌘ある。昨年は霜被害等が多大で10㌧の生産量しかなかった。「今年は生食用で20㌧の生産は大丈夫」と髙松社長は踏んでいる。
杏の木(美味しく早生の平和)
平和の実も6月中旬頃に収穫できる
杏の木(県内でも最大級の信月)
この6月中旬から杏の収穫が始まる。従業員•パートは13名おり、内正社員は7名(男性5名、女性2名)。スタッフは生産の部と加工•販売の部に別れるが、ここで杏宝園生産の部の1年を紹介しよう。
■冬季剪定(1月〜3月)は枝ぶりを加減して細かい剪定をする。
■霜対策(3月〜4月)は気温を常時チェック、夜中であろうが出動。杏の剪定くずが火を炊く燃料になる。
■摘蕾•摘花(3月〜4月)は杏の花が一面に咲き誇る。
■摘果(4月〜5月)は実の配置を見て摘果。時期が決まっているので忙しい。
■収穫(6月〜7月)は朝早くから収穫、時間との勝負。
■選果(6月〜7月)は収穫と同時に選果が始まる。大きさ、色別に選果する。
■肥料(10月〜12月)は完熟堆肥と杏の剪定くずで作った炭を施す。以上が杏生産1年の工程である。
全国を営業で駆け回る(株)AFT取締役の金子光志氏は「これから収穫する減農薬で栽培された杏宝園の杏は、生食向けと加工向けに分けられます。特に加工向けの半生あんずは食品添加物の漂白剤を使用せず、あんずの栄養価をぎゅっと凝縮させて手軽にお召し上がり頂くように仕上げています」と説明してくれる。
髙松義久社長(右)と金子光志取締役
選果場では杏の果皮は傷つきやすいため、手作業で選果される。業務用の半割冷凍あんずは杏を半割れにして種を除き冷凍にし、業務用冷凍ピューレはピューレ状に冷凍しており、何れも添加物一切使用していない。この他にもコンフィチュール(杏の果肉が残ったジャム。ヨーグルトやデザートにピッタリ)、干し杏、杏•林檎ジュースもある。また、近く杏のスパークリングワインも発売予定という。
近く発売される杏のスパークリングワイン
杏宝園(株)AFTの本社事務所と併用して加工場•倉庫(冷凍庫)は千曲市若宮の道路沿いにある。近くには更級小学校もあり、この辺りは「さらしなの里」と呼ばれている。同社では100馬力クラスの大型トラクター、汎用コンバイン(米、小麦、大豆、蕎麦)等も装備しており、集約型農業の最先端を走っている。「杏」と共に「更科」の蕎麦生産を手掛けていく方が第六次産業の事業社としてより充実していくのではないだろうか。