かき氷の多様性を生むのは

氷の結晶構造と切削技術
東工大•東京海洋•ぐるなび総研の共同研究

 食を主要テーマに様々な調査•研究を行い、その成果や提言を広く発信する(株)ぐるなび総研(本社東京都千代田区、滝久雄代表取締役社長)は、国立大学法人東京工業大学(本部所在地:東京都目黒区、三島良直学長 以下、東京工業大)と国立大学法人東京海洋大学(本部所在地:東京都港区、竹内俊郎学長 以下、東京海洋大)の各校と共同で「天然氷と人工氷の結晶構造及び切削時の比較」を行った。
 「天然氷と人工氷の結晶構造及び切削時の比較」は、東京海洋大大学院海洋科学技術研究科•食品冷凍学研究室、食品物性学研究室は、天然氷(栃木県日光市)と人工氷(機械製氷)の結晶の違いを研究(別紙 資料①)し、東京工業大大学院理工学研究科•機械物理工学専攻•大河研究室では天然氷の切削技術に関する研究(別紙 資料②)を行った。天然氷は人工氷に比べ結晶が大きく、その結果、その構造により方向によって切削のしやすさが異なり、人工氷は結晶が小さくどの方向からも比較的切削しやすいことが分かった。これらが現在のかき氷のバリエーションの豊富さを生む要因のひとつと言える。
 天然氷は、1月~2月の冬に寒さを利用してじっくりと時間をかけて自然に凍らせた氷であり、切り出したあとは氷室に入れられ、おがくずに包まれて常温で保存される。古来から伝わるその製造方法は、ほとんど電気を使用しない究極のエコであると言える。
 じっくりと凍らせることができる自然環境を持つ栃木県日光市や埼玉県秩父郡などが蔵元として有名だ。一般的に天然氷は口どけがよく、蔵元の違いが楽しめると言われている。人工氷とは主に製氷工場でマイナス10℃前後で48時間以上かけて凍らせ製造されたものを指し、純氷とも呼ばれる。透明度が高く硬く溶けにくい性質を持つ。
 今回の共同研究は、2014年12月4日にぐるなび総研が「2014年 今年の一皿」に「高級かき氷」を選定したことがきっかけのひとつだ。「2014年 今年の一皿」はその年の日本の世相を映し出し象徴する「食」を人々の共通の遺産として記憶に遺し、保存するために毎年選定および発表を行う。
 かき氷は古くから日本人に親しまれ、日本の食文化に欠かせないものでありながら、近年は時流に合わせて変化を遂げている。多様性の要因をさぐるべく、かき氷においてもっとも重要な素材である「氷」に着目した。

 ぐるなび総研では、ビッグデータの利活用と食の研究を通じて、食文化の発展へ寄与することを目指しています。平安時代から続くと言われ、日本の夏を代表する食文化であるかき氷の発展のため、「天然氷と人工氷の結晶構造及び切削時の比較」をその啓発活動と位置づけ、国内外へ向けて発信することで、優れた日本の食文化のさらなる発展に貢献できればと願っております。
資料①
■大学名:東京海洋大学
■研究者:海洋科学技術研究科 食品冷凍学研究室 教授 鈴木徹
     海洋科学技術研究科 食品物性学研究室 特任教授 小川廣男
■研究テーマ:各種氷における結晶組織構造の比較

■実験内容
 天然氷と人工氷の結晶粒界の有無、その方向性や構造及びサイズ等を観察をした結果に基づいて、それぞれの結晶組織構造の違いを比較した。
■実験結果
 天然氷(栃木県日光市)、人工氷(機械製氷)のそれぞれに直線状の結晶粒界が認められた。いずれの氷組織も比較的大きな複数の氷結晶から構成されていた。天然氷の粒界は六方晶構造のc軸面に垂直なa面にのみ観察された。
 観察した粒界形状から推察される結晶組織の大きさは、天然氷は巾10mm、長さ50mm以上であり、人工氷は巾2〜3mm、長さ10mm前後であった。天然氷の場合、氷結晶組織が大きく成長できる極めて特殊な環境にあったと云えるであろう。
 人工氷にも乱雑な結晶粒界ではなく直線的な粒界が存在した。しかも3次元的に一つの面のみに粒界が観察された。よって人工氷にもa面に相当する結晶面が存在することが示唆される。しかし、人工氷は製氷缶の周囲から氷結するため、氷全体として結晶の成長方向は製氷缶の形状に依存して、必ずしも一方向とはならない。
1_.jpg

資料②
■大学名:東京工業大学
■研究者:大学院理工学研究科・機械物理工学専攻・准教授 大河誠司
■研究テーマ:氷の種類や結晶の方向性による切断結果の違い
■実験内容
 比較対象として天然氷(栃木県日光市)、人工氷(機械製氷)を用意し、約20mm角の立方体に切断する。方向はFig. 2、3のように定義し、切断したい方向に合わせ、Fig. 1に示す回転ミクロトームの台の上に設置する。そして刃を当て、試料の上部から水平方向に切断する。ミクロトームは深さ35μmの間隔で切断していくように設定している。切断時の様子と切断後の切片から比較を行う。
■実験結果
1. 天然氷 切断時はFig.2の①~③の切断方向により大きな違いが見られた。①は柔らかく容易に切断可能であった。②は①よりやや抵抗感があり、切片は直接落ちる傾向があった。③は切断時に大きな抵抗のあるものが多かったが、切断しやすいものもあった。
切片はFig.4~6のようになっており、①はぶつ切れになり、折りたたまれるものが多かった。②は穴が多く見られるもののきれいなシート状になる傾向にあった。③はシート状のものと、構造が疎で壊れやすいものがあり、高さによって傾向が大きく異なると考えられる。
2.人工氷 ①~③により多少の違いはあるが天然氷ほど顕著ではなく、どの方向からでも容易に切断可能であった。またFig.7のように密ではっきりとした切片が取り出せる傾向にあった。(原因)天然氷はa面、c軸の揃った単結晶に近い構造をしており、a面方向に最も結合が強いと考えられる。従って、有限の厚さの刃を用いる関係上、a面方向に進まなければならない③が最も切断困難になる、逆に結合の弱いc軸方向に沿っている①が最も容易に切断できる。
 対して人工氷は空気の全く入っていない純氷であり、結晶軸の把握が非常に困難であった。また人工氷は製法から考えると、位置により結晶軸が異なっていると推測できる。切片が最も密ではっきりしているのは、空気が入っていない為であると考えられる。
2_.jpg

〈参考資料〉
■調査方法:インターネット調査
■調査期間:2015年6月19日(金)~22日(月)
■調査対象: ぐるなび会員(全国)
■サンプル数:1537名

かき氷シーズンの幕開けは、梅雨明け後の真夏日
 今年かき氷を「食べた」または「食べる予定がある」人は74%。そのうち、かき氷を目的に飲食店に行く人は37%。特に女性20代が49%と他の年代よりも多く、2人に1人がかき氷を目的に飲食店に行くと回答している。
 飲食店でのかき氷の許容価格ではボリュームゾーンが「501~800円以下」で43%、次に「500円以下」36%、「801~1000円以下」16%と続く。女性30~50代では「801~1000円以下」を許容価格とする人が2割~3割弱を占め、全体よりも高い傾向があった。
 かき氷を食べたいと思うタイミングで、最も多いのが「真夏日(日最高気温が30度以上)になったら」31%、次に「梅雨明けしたら」19%、「8月になったら」12.1%と続き、気温と摂食行動に関連性が見られた。
 昨年は、シャンパンや生の果実をふんだんに使った高級かき氷が話題となった。かき氷の流行について質問したところ、「2014年に流行したと思う」30%、「2013年以前から流行していたと思う」21%、「2015年から流行すると思う」16%となり、3人に1人が昨年の流行を感じているという結果であった。
 ぐるなびで今年1月から6月にユーザーが「かき氷」を検索した回数は、昨年同期間の4倍にも増加している。特に冬も検索回数が増え、1月は昨年比で8倍にも達した。加えてかき氷を提供する飲食店の数も、2012年から約2倍に増加している。これらのことから、かき氷は飲食店で食べるメニューとしてブームを超えて定番化していると言えそうだ。
3_.jpg