酒は生きもの、杜氏の熱意と会社の良心で
「全国新酒鑑評会金賞」8年連続の信州銘醸
どの地域に行っても造り酒屋の老舗は多い。上田市長瀬にある信州銘醸(株)もその一つだ。創業は江戸後期で、4軒の造り酒屋が一緒になり、昭和33年の通産省の近代化事業で法人が設立され、現在の信州銘醸(株)となった。
「酒は生きものです。杜氏の心意気と熱意、会社の良心で酒造りに励んでいます」という同社の瀧澤光次社長。その証拠に全国新酒鑑評会金賞を連続8回受賞、併せると15回受賞している。更に関東信越国税局清酒鑑評会優秀賞に17回輝き、この他にもスローフードジャパン第3回燗酒コンテストでも金賞を受賞している。
銘柄は「秀峰喜久盛」「明峰喜久盛」「瀧澤」「黒耀」「醲献」「和乃醇」、その他に甘酒、梅酒を造っており、年間販売量は約2300石、リキュール類100石、本数では年間約25万本、一日4000本を出荷している。
最初に「酒造りは熱意と良心」と紹介した。その具体的なこだわりは、蔵内平均精白歩合59%、高精白で雑味のない旨酒造り、信州にこだわった品質本位の酒造り(県産酒造好適米美山錦、アルプス酵母、依田川の伏流水、小谷杜氏)を挙げている。この他の特徴として、消費者ニーズに対応したPBラベル、期間限定の酒米で造った甘酒造りを謳っている。
同社のある旧丸子町は製糸業の盛んなところであったが、昭和4年の世界恐慌、それに続く繭の大暴落で丸子町も大打撃。製糸業の機械工業は残り、その後の町に影響を及ぼし、ものづくりの町として発展し、同社もふるさとのものづくりの一翼を担い、共に発展して来た歴史がある。しかし、である。
ご承知の通り現在のアルコール飲料の裾野は拡がっているが、それに反比例して日本酒の消費のシェアは年々減少している。よく例えられる話として、現在の日本酒の消費量は今から120年前の明治26年頃と同じレベルであるということだ。当時の人口が約4000万人おり、現在が1億2000万人いることからしても、相当に日本酒の消費量が減少していることが伺える。
そんな中にあって、信州銘醸(株)は県内蔵元(104社)の中でも健闘している酒造会社の一つだ。昭和50年代に関東、関西に市場を求め、本醸造酒、純米酒、普通酒を「豊かな自然と環境に恵まれた酒造り」をウリに、一合、300ml、4合、一升の商品構成で積極的に販売網を増やした。更にリキュールの梅酒、松茸酒、甘酒(期間限定)も同社の特徴として売り込んだ。
また、瀧澤光次社長は海外への市場も求めている。すでにホンコン、タイ、イギリスなど五カ国に日本酒を輸出している。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあって、当然日本酒の需要が増えることも見込まれ、同社全体の3割ぐらいのシェアを占めて行きたい思惑を持っている。今期で56期を迎える同社だが、利益も含めてその期待は大きいようだ。
米の出来で変わる日本酒、毎年一年生
杜氏の西沢勝氏の腕にかかる「酒造り」
お酒は米と水と麹と酵母、そして熟練した技術と適した気候で造られる。一般的には、洗米→蒸米→麹造り(製麹)→酒母(酛)→醪(もろみ)→搾り(上槽)→ろ過→殺菌→熟成という工程である。信州銘醸(株)では洗米を「釜場」と呼び、その後「水切り」は長年の経験が必要で、重さを計り一晩寝かす。続いて「蒸米」では蒸した米を麹室に運ぶ。
ここからが酒造りの基本である「麹」「酛」「造り」の工程である。「麹造り」では、種類により使い分け、種付け(麹菌をかける)をして、出麹する(2日間過ぎたら部屋から出す)。 続いて「酒母造り」(酛部屋)では、水、麹、蒸米を混ぜたところに酵母をかける。温度管理も重要になる。「造り」では、人の手で一粒一粒熱を逃がして仕込みタンク(蔵)に入れて仕込む。ここでも温度管理が重要だ。
次に「櫂入れ」は、酒母、醪(もろみ)、水、麹、蒸米を見て、櫂棒を使って掻き混ざる。ドロドロの状態なったここらまでの仕込み、すなわち米の質、麹菌の繁殖する温度、気温の変化などそれぞれによって、それぞれの蔵の調整法が変わってくる。杜氏さんが蔵に寝込んで「酒造りに励む」というのはこの辺のことだ。その後に「上槽」で醪を搾り、ろ過され、調整されてお酒ができあがり、蔵から瓶工場で瓶詰めされるというのが一連の工程だ。
同社の杜氏は西沢勝氏(77)。小谷村出身で16歳から酒造りを学び、35歳で杜氏になる。酒造りは毎年毎年一年生。蔵人の1人1人に作業の仕方を教えない。盗んで学べが信条で、すべては経験と体験であり、「日本酒は生きものである」ことを身を持って教えている。
「酒は水もの…」とよく言われるが、事実、酒の80%は水である。作り方次第で原価は大幅に変わってくる。造り手の「熱意」も大いに貢献するが、同社が会社の「良心」を訴えているのはこの辺である。また、お酒の伝統の味を守るために地産地消にこだわり上田市の農家の契約栽培は65%(ひとごこち、美山錦)にのぼる。水も黒耀水(軟水)を使う程のこだわりだ。
酒蔵がお店(酒販店)にやって来たがウリだ
生原酒量り売り「地蔵蔵」システムで売上増
酒蔵見学をした方ならお分かりのように、搾りたてや貯蔵タンクから直接飲んだお酒の旨さは格別である。杜氏蔵人しか飲めなかった「忘れられない原酒の旨さ」をそのままの品質でお届けするのが、生原酒量り売り「地酒蔵」システムだ。
割水という加水をしない醸したままの「原酒」、あるいは「火入れ」という加熱殺菌処理を施さない「生のままの酒」を直接お客様に提供するというものである。酒販店に訪れたお客様に「利き酒」して頂くのもウリの一つだ。
具体的には酒蔵の生原酒の長期貯蔵タンクを小売販売用に高機能化した「サーマルタンク」(−2度設定、タンクの中の酒は−1度)を設置し、量り売りして頂くというもの。勿論、蔵元からは冷蔵状態で慎重に責任配送される。
このサーマルタンクの大きさは500ℓ、800ℓ、1000ℓ、1200ℓ、1500ℓ、2000ℓ型(−20度まで冷やすコンプレッサーが付いている)を揃えている。信州銘醸(株)地酒蔵事業部「諸国銘酒会」は、「街の酒屋さんを一軒でも多く守りたい」という信念で発足したシステムである。
このシステムに必要な資金はサーマルタンク一式(1000ℓ型)で約120万円、搬入費用(運搬•設置費)10万円、加盟金30万円。「酒蔵がお店に来た」というふれ込みで、全国の酒販店に30店舗展開している。お酒の供給出来る範囲は、西が三重、大阪、和歌山。東は千葉、埼玉、東京までである。また、県内の酒販店は3カ所あり、その他に旅館で柏屋別荘にも置かれている。
「本当に美味しい日本酒(真っ当な生原酒)」を一人でも多くの人にということで、同社では飲食店用の20ℓのサーマルタンクの提供も現在準備中だ。県内の酒造会社はくだんで104社と紹介したが、実際にお酒を醸造している会社は、今年で65社ぐらいになるといわれている。信州銘醸(株)の新しい挑戦は目が離せない状況といえよう。