2024.03.27(水)

新規需要米に適した水稲新品種
「あきいいな」耐病性が優れ倒れ
にくいため安定生産が可能に

   農研機構は葉いもちに強く、耐倒伏性が優れる水稲新品種「あきいいな」を育成した。「あきいいな」は、多収品種「ホシアオバ」と同等の収量性で、西日本の主力品種「ヒノヒカリ」より約2割多収であり、「ホシアオバ」より早く「ヒノヒカリ」並の熟期で、暖地および温暖地西部の平坦地での栽培に適す。「あきいいな」を導入することにより新規需要米の低コストで安定的な生産が期待されるう。
<概要>
   主食用米の国内需要量減少にともなう需給及び価格の安定を図る対策の一環として、農地の有効利活用と農業所得の向上を図るため、農林水産省では米粉用や飼料用といった新規需要米1)向け多収品種の作付けを推進している。
   これら多収品種は、肥料投入量を増やすことで一般品種より大幅に収量を増大させることが可能なため、品種の特性に応じて十分な施肥を行うことで生産コストの低減ができる。しかし、窒素の多施用を行うと、いもち病2)などの病虫害や倒伏が発生しやすく、収量の減少、防除コストの増加、作業効率の低下が問題となる可能性がある。
   そこで農研機構では、飼料用多収系統と耐病性の優れた主食用品種との交配組み合わせから新品種「あきいいな」を育成した。「あきいいな」はいもち病に強く、縞葉枯病3)に抵抗性があり、耐倒伏性に優れ、玄米収量が新規需要米向け多収品種「ホシアオバ」と同等で西日本の主力品種「ヒノヒカリ」より2割程度多収だ。「あきいいな」は新規需要米の低コストで安定的な生産に貢献することが期待されるう。今後、品種利用許諾先で2024年度に種子増殖を行い、2025年度から生産者へ種子を提供できる予定だ。

「あきいいな」の株標本
左から「あきいいな」「ホシオアバ」「ヒノヒカリ」

<関連情報>
予算:運営費交付金
品種登録出願番号:「第36879号」(令和5年5月23日出願、令和5年9月25日公表)
 
お問い合わせ先は
研究推進責任者 : 農研機構 九州沖縄農業研究センター所長 原田久富美
研究担当者 : 同 暖地水田輪作研究領域 作物育種グループ長 黒木慎
広報担当者 : 同 研究推進室 広報チーム長 田中和光
 
<詳細情報>
背景
   主食用米の国内消費は近年10万トン/年のペースで減少しており、需要に応じた生産の一環として米粉用や飼料用といった新規需要米の作付けが推進されている。新規需要米の生産にあたっては主食用米以上の低コスト化が求められることから、多収品種を多肥栽培することが栽培技術の基本となる。しかし、窒素の多施用を行うと、いもち病などの病虫害や倒伏が発生しやすく、収量の減少、作業効率の低下が問題となる場合がある。また、従来の新規需要米向け多収品種のいもち病抵抗性4)は特定のいもち病菌のレース5)のみの感染を阻止する抵抗性(真性抵抗性)に由来する。そのため、抵抗性のないレースがまん延すると従来の多収品種はいもち病に感染してしまう例が報告されている。
   新規需要米をより低コストかつ安定的に生産するため、いもち病菌のレースが変動しても安定的に効果を発揮する抵抗性(ほ場抵抗性)を有するなど耐病性に優れ、耐倒伏性に優れる多収品種が求められていた。
新品種「あきいいな」の特徴
【来歴】
   中生で耐倒伏性が強く多収の飼料用系統「飼45」を種子親、晩生でいもち病ほ場抵抗性、耐倒伏性が強く、縞葉枯病抵抗性で多収の主食用品種「たちはるか」を花粉親とする交配組み合わせから育成された。
【特長】
・ほ場抵抗性遺伝子Pi39を持つと推定され、葉いもちほ場抵抗性は"かなり強"、穂いもちほ場抵抗性は"やや強"だ。「あきいいな」はいもち病菌のレース変動の影響を受けにくく、安定したいもち病抵抗性を示すことが期待される(表1)。
・縞葉枯病に"抵抗性"。
・多肥条件(窒素成分12kg/10a施用)でも倒伏は「ホシアオバ」よりやや少なく、「ヒノヒカリ」より少なく、耐倒伏性は"やや強"です (表1、表2、写真1)。
表1 品種特性の比較

写真1「あきいいな」の草姿
左から「あきいいな」「ホシオアバ」「ヒノヒカリ」

・粗玄米重は669kg/10aで「ホシアオバ」と同等、「ヒノヒカリ」より約20%多くなる。
・育成地である九州北部での出穂期は8月21日頃、成熟期は10月19日頃で「ヒノヒカリ」とほぼ同様だ(表2)。
表2 移植栽培における生育特性および収量
 
   数値は2017、2018、2020~2022年の平均。移植日の平均は6月19日。栽植密度は20.8株/m2(条間30cm×株間16cm)。窒素施肥量は12kg/10a。倒伏程度は0(倒伏なし)~5(全面倒伏)の6段階評価。
【その他栽培特性および栽培上の注意点】
・温暖地の平坦部および暖地での栽培に適しています。
・稈長(かんちょう)は100cm程度と「ホシアオバ」と同様に長く、穂長も「ホシアオバ」と同様で、穂数は「ホシアオバ」並からやや多い(表2)。
・多肥栽培に適しているが、極端な多肥はいもち病などの病害虫の発生や倒伏の恐れがある。
・穂いもちほ場抵抗性は"やや強"ですが、穂いもちの多発が予測される場合は、予防的に薬剤散布を行うなどの防除を検討して下さい。白葉枯病抵抗性が不十分なため、常発地での栽培は避ける必要がある。
品種の名前の由来
   収穫の秋に充分納得できる水準の収量が確保できる品種であることにちなんで命名した。
今後の予定•期待
   「あきいいな」は、山口県で飼料用米としての栽培が見込まれている。原種苗については品種利用許諾先で2024年度に種子増殖を行い、2025年度から生産者へ種子を提供できる予定だ。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
   「あきいいな」の種苗を生産して譲渡を行う団体と利用許諾契約を締結し原種苗を提供する。一般の方の種苗の入手先は以下でご確認下さい。農研機構育成品種の種苗入手先リスト(https://www.naro.go.jp/collab/breed/seeds_list/index.html)。リストに掲載が無い場合は、利用許諾契約に関するお問い合わせ(下記)に記載するメールフォームでお問い合わせ下さい。
利用許諾契約に関するお問い合わせ
下記のメールフォームでお問い合わせ下さい。
農研機構HP【研究•品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu
なお、品種の利用については以下もご参照下さい。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html
用語の解説>
新規需要米
   国内主食用米、加工用米、備蓄米以外の、以下の用途のために生産された米穀(稲を含む)。
①飼料用
②米粉用(米以外の穀物代替となるパン•麺等の用途)
③稲発酵粗飼料用稲
④青刈り稲•わら専用稲(飼料作物として用いられるものに限る)
⑤新市場開拓用(①②を除く、内外の米の新市場の開拓を図ると判断される用途に供される米穀)
いもち病
   いもち病は、糸状菌のPyricularia oryzaeにより引き起こされるイネの重要病害。夏季の低温や天候不順で多発する傾向がある。葉に発生する葉いもちでは、最初白色斑点から暗緑色斑点ができ、次第に拡大し、最後には内部が灰白色、周囲が赤褐色の紡錘形の病斑となる。発病が甚だしい場合には、葉や茎などが枯れるズリコミ症状を呈し、収穫皆無となる。穂いもちでは、穂首に感染すると暗緑褐色の病斑が形成され、養分供給が阻害されて白穂となる。また、枝梗や籾に感染すると籾の稔実が妨げられ、籾が灰白色となる。
縞葉枯病
   イネ縞葉枯ウイルスによって引き起こされる病害。ヒメトビウンカによって媒介される。葉に黄緑~黄白色の病斑を生じ、葉がこより状になって垂れる「ゆうれい症状」を呈したり、穂が奇形になったりして減収し、ひどい場合には枯死することもある。多発すると収量の減少につながり、ウイルスを保有したヒメトビウンカが増加して地域の稲作へも影響する。ヒメトビウンカは麦類を好むので稲麦二毛作地帯で発生が多い傾向があり、近年は全国的に増加傾向にある。
いもち病抵抗性
   いもち病抵抗性は、真性抵抗性、ほ場抵抗性の2種類に分類される。真性抵抗性を持つイネは、特定の系統(レース)のいもち病菌に対して、強力な抵抗性反応が引き起こされ、いもち病に感染しません。しかし、別のレースのいもち病菌に対してはこの反応が起きず感染する。これまでに、1種類の真性抵抗性遺伝子をもつイネを栽培し続けると、抵抗性反応を起こさない(感染可能な)いもち病菌のレースが数年のうちに優勢になり、いもち病を防ぐことができなくなることが知られている。
   ほ場抵抗性は感染を完全には防ぎませんが、様々なレースのいもち病菌に対して被害を軽減するタイプの抵抗性である。また、真性抵抗性のように特定のレースの増殖を許してしまうことはなく、そのために長期間にわたり安定的に利用できると考えられている。
レース
   いもち病菌などには、形態的には区別できないものの、宿主によって病原性が異なる個体群(菌系統)が存在する。このうち、イネ品種によって病原性を異にする菌系統をレースという。