2023.09.08(金

植物性食品のおいしさ向上への官能評価の活用
動物性•植物性とんこつ(風)スープのおいしさの
違いを明らかに(農研機構、不二製油)

   農研機構は、不二製油グループ本社(株)・不二製油(株)と共同で、動物性食品と 植物性食品 1)のおいしさの違いを明らかにすることを目的として、動物性•植物性のとんこつ(風)スープに適用可能な 官能評価 2)法を開発した。本成果により「物足りない」と言われがちな植物性食品の満足感向上のために必要な要素が明らかとなり、動物性食品に近い味の再現やおいしさを訴求した植物性食品の創出に貢献する。
<概要>
   持続可能な食料生産システムに対する関心や消費者の健康志向の高まりなどを背景に、植物性食品(植物由来の原料を用いた食品)の需要が世界的に拡大している。しかし、代替食品としての植物性食品は、動物性食品(動物由来の原料を用いた食品)と比べて、「おいしくない」「物足りない」ととらえられる場合もある。そのため植物性食品と動物性食品ではおいしさの面で何が違っているのか、物足りなさの原因は何なのかを解明することが求められている。
   そこで農研機構は、不二製油グループ本社(株)・不二製油(株)と共同で、植物性食品と動物性食品のおいしさの違いを明らかにすることを目指して、2021年より研究を開始した。本研究では、動物性の原料を用いる典型的な食品で、昨今世界的に需要が高まっているとんこつスープを試料とし、動物性のとんこつスープと植物性のとんこつ"風"スープ(動物性のとんこつスープを模した植物性食品)の両者に適用可能な官能評価法を開発した。これにより同一の基準で両者の違いを評価することが可能となった。
   まず、動物性•植物性のとんこつ(風)スープの特徴を表現する33語の評価用語を決定した。この用語を用いて、訓練されたパネリストが各製品の官能評価を行い、動物性•植物性のとんこつ(風)スープの味や香りの違いが可視化された。次に一般消費者に各製品から感じる「動物っぽさ(動物感)」の強さを評価してもらった。その結果、とんこつスープではどのような味や香りを「動物感」が高いと評価するかは人によって異なり、複数のパターンがあることが分かった。
   今回開発した官能評価法を他の食品に応用することで、様々な植物性食品のおいしさの要因を明らかにでき、より動物性食品に近い植物性食品の開発や、代替食品という位置づけにとどまらない新たなおいしさを訴求した植物性食品の創出につながると期待される。
関連情報
予算 : 資金提供型共同研究(2021-2023年)、運営費交付金 
お問い合わせ先など
研究推進責任者 : 農研機構食品研究部門所長 髙橋清也
研究担当者:不二製油グループ本社(株)執行役員 未来創造研究所長 中村彰宏
                  不二製油(株)取締役 開発統括部門長 横溝太
研究担当者 : 農研機構食品研究部門 食品流通•安全研究領域 中野優子•早川文代
      不二製油グループ本社(株) 未来創造研究所 新素材創出グループ健康機能素材創出
                  チーム 平野啓太
                  不二製油(株)基盤新技術開発部 第三課課長 富研一
広報担当者 : 農研機構食品研究部門 研究推進室渉外チーム 亀谷宏美
 
<詳細情報>
開発の社会的背景と研究の経緯
   植物性食品とは植物由来の原料で製造された食品のこと。新興国の経済成長や世界的な人口増加に伴う動物性タンパク質の供給不足、宗教や思想上の理由による食事制限、消費者の食嗜好の多様化などに対応するための食の選択肢のひとつとして、植物性食品の需要が世界的に高まっている。
   しかし、代替食品としての植物性食品は、動物性の原料でつくられた従来の食品、すなわち動物性食品と比べて物足りないという評価を受けることもある。そこで農研機構は不二製油グループ本社(株)•不二製油(株)と共同で、植物性食品と動物性食品のおいしさの違いを明らかにすることを目指して、2021年より研究を開始した。
   食品のおいしさを測定する方法のひとつに、官能評価という手法がある( 図1)。官能評価では、人が実際に食品のにおいを嗅いだり食べたりしたときに感じる香りや味などを測定する。農研機構では、これまで様々な食品について官能評価を行ってきた。そこでこれまでの知見を活かして動物性•植物性両方の食品のおいしさに関わる香りや味の特徴を把握し、その違いを明らかにできる官能評価法を開発することとした。
   典型的な動物性食品の1つであり、かつ、海外からの人気も高いとんこつラーメンは、宗教上、思想上、健康上の理由から、植物性の代替食品の需要が高まっている。そのためインスタントやカップラーメン、業務用などさまざまなバリエーションのとんこつスープ及びとんこつ風スープが市場に流通している。そこで我々は本研究の試料を動物性•植物性のとんこつ(風)スープとした。研究の内容•意義
①33の官能評価用語を決定
   33種類の市販の動物性・植物性とんこつ(風)スープについて、訓練を受けた熟練の パネリスト 3)が実際ににおいを嗅いだり食べたりして、その特徴を言葉で表現した。得られた289語の言葉を整理し、動物性•植物性のとんこつ(風)スープの特徴を表現する33語の評価用語を決定した。
②香りや味の特徴を視覚的に表現
   決定した評価用語を使って、熟練のパネリスト7名が代表的な12種類の市販の動物性•植物性のとんこつ(風)スープの官能評価を行った。その結果に対して 主成分分析 4)という解析手法を適用することにより、各とんこつ(風)スープの香りや味の特徴を視覚的に表すことができた( 図2)。すなわち、動物性のとんこつスープからは、油脂感、獣臭、しょうゆの香りなどの言葉で表現される特徴が感じられ、一方、植物性のとんこつ風スープからは、ショウガの風味、野菜の風味、鶏がらスープの香りなどの言葉で表現される特徴が感じられることが示された。
③おいしさと関連するキーワード
   一般の消費者がとんこつスープのおいしさにおいて何を重視するのかを調べるため、男女12名に対して、動物性•植物性とんこつ(風)スープ各2種類の実食を伴うインタビュー調査を実施した。その結果、とんこつスープのおいしさや物足りなさと関連する要因として、「濃さ」「複雑さ」「動物っぽさ」というキーワードが得られた。
④動物感のとらえ方をパターン化
   さらにとんこつスープの「動物っぽさ(動物感)」に着目し、一般消費者34名に動物性•植物性とんこつスープ各2種類の動物感の強さを評価してもらった。その結果、どのような香りや味に対して動物感が強いと評価するかには個人差が大きいものの、動物感のとらえ方には複数のパターンがあることが分かった( 図3)。すなわち全体的な味が濃いと動物感を強く、味が薄いと動物感を弱く感じるパターンや、醤油や味噌の香りや風味が感じられると動物感を強く、スパイシーさが感じられると動物感を弱く感じるパターンなどが見出された。
今後の予定•期待
   今後、各とんこつ(風)スープの特徴と、消費者が実際に食べた時に感じる動物感やおいしさを、個人差を考慮しながら照らし合わせることで、とんこつ(風)スープの味や香りをどのように制御すれば消費者一人ひとりにより高い満足感を与えられるかが具体的に分かるようになる。また、今回開発した一連の官能評価法をその他の食品に適用することで、様々な植物性食品のおいしさの要因を解明することが可能になり、より動物性食品に近い植物性食品の開発や、さらに代替食品の位置づけにとどまらない新たなおいしさを訴求した植物性食品の創出につながることが期待される。
<用語の解説>
植物性食品
   植物由来の原料から製造された食品。プラントベースフードとも呼ばれる。
官能評価
 目、鼻、舌など人間の感覚器官を使って、対象物の性質を評価する手法。
パネリスト
   官能評価に従事する評価者。
主成分分析
   多数の変数で構成されているデータがもつ情報を集約して、そのデータの特徴を少数の変数(主成分)で表す統計解析方法。本研究では味の強さ、スパイシーさなど主成分分析の対象としたデータに含まれていた情報を、主成分(動物性•植物性食品らしさなど)がどの程度説明しているかを示す指標として、寄与率が算出される。
発表論文等
日本食品科学工学会 第70回記念大会講演要旨集
日本調理科学会 2023年度大会研究発表要旨集
参考図

図1食品の官能評価の流れ

図2 動物性•植物性のとんこつ(風)スープ12種の特徴

図3 動物感のとらえ方のパターン例