2023.08.23(水)

ご飯のおいしさを表す言葉をリスト化
米飯の官能評価用語体系の構築に向けて
─農研機構•伊藤忠食糧(株)─

   農研機構は伊藤忠食糧(株)と共同で、米飯の食味や食感を表す言葉を広く収集•整理して、約100語から成る用語リストを作成した。このリストは、さまざまな米飯の品質を詳細に評価する際や米の品種や炊飯方法などによるおいしさの違いを具体的に伝える際の参考資料として使うことができる。今後、辞書のように使える「米飯の表現体系」として展開する予定だ。
   「ふっくら」「もっちり」「つぶだちがよい」「甘みが強い」といった言葉は、消費者へ米飯(炊飯した米)のおいしさを伝える際によく使われる。それだけでなく、米や米飯の流通、稲の栽培、新しい品種の育成といったさまざまな現場においても、米飯の特徴を表すために使われている。
   しかしながら、米飯の特徴を表す言葉は数多くあるが、これまでそれらの言葉の整理はなされていませんでした。そのため、ごく限られた言葉しか使われずに詳細な品質が表しきれていない言葉が曖昧に使われているために特徴が明確に伝えきれていない、などの問題点が指摘されていた。
   そこで農研機構は伊藤忠食糧(株)と共同で、「白飯として食べる米」を対象とした「米飯の官能評価用語体系」を構築することを目指して、2021年に研究を開始した。これまでに品種の異なる数十種類の米飯やさまざまなタイプの業務用米飯などを、熟練した評価員が実際に食べて特徴を言葉にした。また、過去の多くの研究や書籍などからも表現を収集した。このようにして得られた約7000語もの表現を集計、整理、統合して、最終的に約100語のリストにまとめた。今後、リスト内の各用語に定義や例示を付して、辞書のように使える用語体系を完成させる予定だ(2024年度予定)。
   この用語リストを参照することで、より詳細な米飯の評価設計が容易になり、また、おいしさの詳細を伝える際にも言葉選びが容易に行えるようになる。特性を正確に表すことにより、広く米や米飯の高品質化、需要拡大に貢献する。なお、本成果については、日本食品科学工学会第70回記念大会(会期:2023年8月24日(木)~26日(土))において発表する。
<関連情報>
予算 : 資金提供型共同研究(2021-2023年)、運営費交付金
お問い合わせ先など
研究推進責任者 : 農研機構食品研究部門所長 髙橋清也
                        伊藤忠食糧(株)米穀本部長 天野敏也
研究担当者 : 農研機構食品研究部門 食品流通•安全研究領域 早川文代 梅本貴之 中野優子
                  伊藤忠食糧(株) 米穀サポートチーム 諏訪憲久 安藤美紀
広報担当者 : 農研機構食品研究部門 研究推進室渉外チーム 亀谷宏美
 
<詳細情報>
開発の社会的背景と研究の経緯 
<米飯品質の多様化>
   近年、よりおいしいご飯を食べたいという消費者に応えるため、さまざまな特徴を持つおいしい米が次々に登場している。また、より自在に米の選択を行いたいとのニーズを受け、少量単位で購入できる商品も多く登場している。一方で中食•外食消費の増加に伴い、業務用米飯の需要も高まっている。業務用米飯は、外食店での米飯、コンビニエンスストアなどで販売される弁当の米飯など多岐にわたっている。消費者は、炊飯前の米であれ、米飯であれ、食シーンに応じてさまざまに選択しており、着目される米飯の品質はより多様になっている。
<米飯の品質表現の揺れ>
   「ふっくら」「もっちり」「つぶだちがよい」「甘みが強い」など、米飯の品質を表す言葉は、販売、流通、加工、生産、品種育成に携わる多くの人々にとって重要だ。米や米飯の高品質化や付加価値向上のためには、「食べてどう感じるか」という視点が必要で、さまざまな現場で 官能評価 1)が行われている( 図1)。官能評価では品質を表す言葉を適切に使う必要がある。

訓練されたパネルが多項目を評価

専門家が一度に多試料を評価

消費者が自分の好みに応じて評価
   しかし、このような言葉には曖昧さが伴い、現場によって、組織によって、人によって、使われ方が違うことがある。そのため、限られた言葉しか使われずに詳細な品質が評価しきれていない言葉の曖昧さが原因で評価の精度が低い、などの問題点が指摘されていた。
   また、品質を伝える際にも言葉は重要な役割を果たす。昨今、米や米飯の流通経路や販売形態は多岐にわたり、おいしさに関連する品質の情報を明瞭に伝える必要性はこれまで以上に高まっている。しかし、米飯の特徴を表す言葉の整理は行われていませんでした。
<用語体系の開発へ>
   このように、従来の言葉では表現しづらい米飯が登場し、混乱が生じる場面も増えている。農研機構では、これまで食べ物の表現を体系化して品質評価に利用する取り組みを行ってきた。米飯についても、品質を表す言葉を整理して共通言語化すれば、精確な品質評価ツール、コミュニケーションツールになると考えられる。そこで今回、伊藤忠食糧(株)と共同で、業務用も広く含めた米飯の用語体系の作成に着手した。
研究の内容・意義
1 米飯のおいしさに関連する用語体系の開発に取り組んでおり、稲、米、米飯に関係する多くの業界で共通に使うことができる初の用語体系を目指している。今回はその最初の成果として「米飯の官能評価用語リスト」を得ることができた( 図2)。  

図2 米飯の官能評価用語リスト(抜粋)
2 用語リストは約100語から成り、外観/香り/味•フレーバー/テクスチャー(食感)に分けられてい
 る。類義語や反対語に関する情報も含んでいる。
3 リストにある用語は、熟練した パネル 2)が実食して特徴を言葉にしたものだ。また米に関する
 多くの先行研究や書籍などからも表現を収集した。得られた約7000語の表現を集計、整理、統
 合して、最終的に約100語のリストにまとめている。
4 用語リストが対象としている米飯は「白飯として食べる米」で、広範囲にわたる。用語を収集す
 るための実食では、全流通量(2019年度)の約80%をカバーする品種の米を用い、さらに アミロー
 ス含有率 3)が異なるさまざまな特徴をもつ品種の米も用いた。米飯としては チルド米飯 4)常温
 米飯 5)、保温した米飯、包装米飯などを対象としている。
5 用語リストを参照することで、米飯の官能評価の項目設定が効率的に行える。特に米飯の詳細
 な品質や、新たに登場した品種の米の品質や、新たなタイプの業務用米飯の品質について官能
 評価を設計するときに有効だ。
6 用語リストによって米飯の品質要素が把握しやすくなるので、官能評価のパネルの訓練にも役立つ。これにより官能評価の精度向上につながることが期待できる。
今後の予定•期待
   今後、それぞれの用語に定義と例示を付し、「用語リスト」から辞書としても機能する「用語体系」へと展開させる( 図3)。用語体系は官能評価の高度化に寄与するだけでなく、米飯の品質情報の共有を促進する。これまで品種育成、栽培、流通、加工•調理、販売、消費などそれぞれの現場で、それぞれに使われていた言葉を共通言語化することで、米や米飯に関わるステークホルダー間のコミュニケーションを円滑にし、消費者の多彩なニーズへの対応に貢献すると考えられる。本用語体系は、完成後(2024年度以降)に農研機構のホームページなどで公開する予定だ。

図3 米飯の官能評価用語体系(イメージ図)
<用語の解説>
官能評価
   目、鼻、舌など人間の感覚器官を使って、対象物の性質を評価する方法。食べ物の香り、味、テクスチャー(食感)などのデータを取り、統計的に解析することができる。
パネル
   官能評価に従事する評価者の集団をいう。訓練された少数の人がパネルとなる場合も、消費者を代表するような多数の人がパネルになる場合もある。
アミロース含有率
   米の主成分であるでんぷんのうち、グルコース(ブドウ糖)が直鎖状に結合した成分をアミロース、枝分かれ構造を持つ成分をアミロペクチンと呼ぶ。米に含まれるでんぷんの中でのアミロースの割合をアミロース含有率という。アミロース含有率は米飯のテクスチャーに大きく影響することが知られており、アミロース含有率が低い米は粘りが強くやわらかい米飯となる。
チルド米飯
   炊飯後、真空冷却で温度を約4°Cまで急速に下げ、4~5°Cで保存、流通させる米飯。持ち帰り弁当や種々の給食などに使われ、電子レンジなどで再加熱して食べる。炊飯後5~6日間保存できる場合が多い。
常温米飯
   炊飯後、真空冷却などで温度を約18~20°Cまで急速に下げ、約18~20°Cで保存、流通させる米飯。おにぎり•おむすび、持ち帰り弁当などに使われる。
発表論文等
   日本食品科学工学会 第70回記念大会講演要旨集