2023.08.17(木)

ついに発売 ! 早生で耐雪性に優れる牧草
イタリアンライグラス新品種「クワトロ-TK5」
積雪地でもトウモロコシとの二毛作が可能に(農研機構)

   農研機構が開発したイタリアンライグラス早生品種「クワトロ-TK5」の種子の販売が8月下旬より開始される。本品種は根雪期間1)80日程度までの積雪地で栽培でき、早生であることから、刈り取り後に夏作(サイレージ用トウモロコシ等)を播種しても生育期間が十分にとれるため、積雪地でも二毛作が可能となり、土地面積あたりの収量増加が期待できる。
<概要>
   農研機構は、耐雪性2)に優れるイタリアンライグラス早生品種「クワトロ-TK5」を開発した。本品種は根雪期間80日程度までの積雪地で栽培でき、早生なので刈り取り後に夏作(サイレージ用トウモロコシ等)の生育期間が十分にとれるため、積雪地でもイタリアンライグラス―サイレージ用トウモロコシの二毛作が可能となる。
   イタリアンライグラスは、初期生育に優れ、栄養価と嗜好性が高いため家畜の生産性が高まることから、国内で最も種子流通量の多いイネ科牧草だ。関東以西では冬作にイタリアンライグラスを栽培し、夏作にサイレージ用トウモロコシを栽培する二毛作体系での生産が広く行われている。
   イタリアンライグラスは耐雪性に劣るため、北海道や東北•北陸地域など根雪期間の長い地域ではあまり栽培されてきませんでした。中生品種には耐雪性に優れる品種もあるが、トウモロコシの栽培期間が限られる東北地域において二毛作を行うには、刈り取り時期の遅くなる中生ではなく、5月中旬に刈り取り作業が終えられる早生で耐雪性に優れる品種が必要だ。
   そこで農研機構東北農業研究センターでは、この条件を満たしたイタリアンライグラス早生品種「クワトロ-TK5」を育成し、「クワトロ-TK5」の種子は2023年8月下旬から雪印種苗より販売が開始される。 「クワトロ-TK5」を利用することで、東北や北陸地域の根雪期間80日程度までの積雪地でイタリアンライグラス―サイレージ用トウモロコシの二毛作が可能となり、年間の飼料生産量の増加が期待できる。

「クワトロ-TK5」の草姿 2016年5月6日撮影(岩手県盛岡市)

<関連情報>
品種登録番号:「クワトロ-TK5」第27979号(2020年6月15日登録)
予算:本品種の育成期間の一部は農水省委託プロ「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発 -1系 自給飼料の生産量•質の画期的な向上によるTDN増産技術の開発-」で行った。
 
   お問い合わせ
研究推進責任者:農研機構東北農業研究センター所長 川口健太郎
研究担当者:同緩傾斜畑作研究領域上級研究員 久保田 明人
広報担当者:同広報チーム 長櫻玲子
 
<詳細情報>
開発の社会的背景と研究の経緯
   関東以西では、冬作にイタリアンライグラス、夏作にサイレージ用トウモロコシを栽培する二毛作体系での飼料生産が広く行われている。しかしながら、早生のイタリアンライグラスは耐雪性に劣り、積雪地域でこのような二毛作は困難とされている。既存の耐雪性早生品種「ワセアオバ」は根雪期間が60日を超えると減収するため、東北•北陸の積雪地域では耐雪性が十分ではない。「ナガハヒカリ」など中生品種には耐雪性の優れる品種もあるが、中生であるため夏季の短い東北地域では夏作を組み合わせることが困難だ。そこで夏作との組み合わせが可能となる早生で耐雪性の優れる品種を育成した。
新品種「クワトロ-TK5」の特徴
  「クワトロ-TK5」は四倍体3)早生品種(表1)。試験段階のイタリアンライグラス「東北2号」から耐雪性や乾物率を選抜指標に、4回選抜することにより育成した。流通している早生品種の中で最も耐雪性に優れる「ワセアオバ」と比較することにより、「クワトロ-TK5」の特性を述べる。
早晩性:出穂始日4)は「ワセアオバ」より2日早いが、出穂期5)は同程度であり、早生(表1)。
表1図1)。図2に融雪後と出穂前の写真を載せた。両品種の耐雪性の差がよくわかると思う。
少雪地6)においては
     「ワセアオバ」と同程度の収量(表1図1)。
乾物率:出穂期の乾物率は「ワセアオバ」よりやや低い(表1)。
その他の特性:倒伏程度、推定TDN7)含量、冠さび病8)抵抗性(接種検定)は「ワセアオバ」と同
程度(表1)。
  「クワトロ-TK5」を利用することで、これまで二毛作ができなかった根雪期間80日程度までの地域でも二毛作が可能となる。3月中旬の積雪深から推定される「クワトロ-TK5」の栽培可能地域を図3に示す。農研機構東北農業研究センター(東北研、岩手県盛岡市)の試験圃場では、土地面積あたりの乾物収量が40%増加する試算(図4)。二毛作の栽培暦の一例を表2に示す。
栽培上の留意点
 東北の日本海側や標高の高い地域など、根雪期間80日以上の積雪地では枯死株が増えて低収となり、100日を超える地域は栽培には向かない。二倍体品種よりも種子が大きい(表1千粒重の値が大きい)ので、播種量は多めに3~4kg/10aとする。
品種の名前の由来
   「クワトロ」と聞くと、多くの方はピザやドイツ製の高級車を思い浮かべるかもしれないが、「クワトロ」はイタリア語で数字の「四」という意味。イタリアンライグラスには二倍体と四倍体の品種があり、「クワトロ-TK5」は四倍体の品種だ。二倍体は私たち人間と同じようにDNAを2セット持っているが、四倍体はDNAを4セット持っている。四倍体は二倍体よりも耐雪性に優れる特性があるが、これまでは四倍体で早生の品種はありませんでした。耐雪性に優れ、早生品種の四倍体であることを強調するため、「クワトロ-TK5」と名付けた。「TK5」は品種になる前の試験段階の名前「東北5号」を略したものだ。
今後の予定•期待
   酪農や肉用牛の生産者、コントラクター9)等の飼料生産組織を普及対象とする。栽培適地は根雪期間80日程度までの積雪地ですが、耐雪性が問題とならない少雪地でも、突発的な多雪年に備えて「クワトロ-TK5」を栽培することを推奨する。奨励品種に採用予定の8県(宮城県、山形県、新潟県、富山県、石川県、和歌山県、徳島県、大分県)を中心に、公設試験研究機関•普及組織と連携して普及活動を実施し、当面は年間33ha、将来的には年間100haを目指す。農研機構東北農業研究センター(以下、東北研)では、栽培方法等を詳しく記載した標準作業手順書を2023年度内に作成•公表予定だ。
種子入手先
   「クワトロ-TK5」の種子の購入•種子カタログにつきましては、以下へお問い合わせ下さい。
■雪印種苗株式会社
 〒004-8531 札幌市厚別区上野幌1条5丁目1番8号 
   TEL 011-891-5911  FAX011-891-5920
 
   利用許諾契約に関するお問い合わせは下記のメールフォームでお問い合わせ下さい。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】なお、品種の利用については以下もご参照下さい。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
<用語の解説>

  1. 根雪期間:ここでは10cm以上の積雪深が連続で続いた日数としている。
  2. 耐雪性:長い期間積雪下にいると、貯蔵していた栄養分がなくなり、病気に対する抵抗力が落ちて雪腐病という病気に侵され、酷い場合には株が枯死したり、収量低下を招きます。雪腐病に対する抵抗性を耐雪性と呼ぶ。本州では褐色雪腐病菌、雪腐褐色小粒菌核病菌及び紅色雪腐病菌による被害が多いことが知られている。
  3. 四倍体:私たち人間を含め多くの動物は二倍体で、DNAを2セット持っているが、植物には四倍体、六倍体、八倍体なども存在する。イタリアンライグラスには二倍体と四倍体の品種があり、「クワトロ-TK5」は四倍体の品種。四倍体は二倍体よりも耐雪性に優れる特性がある
  4. 出穂始日(しゅっすいしび):1平方メートルあたり3本が出穂した月日。
  5. 出穂期(しゅっすいき):半数の茎が出穂した月日。
  6. 少雪地:ここでは積雪はあるが、10cm以上の積雪深が60日未満の地域としている。
  7. TDN(Total Digestible Nutrients:可消化養分総量)含量:エサを家畜に与えた際、実際に家畜のお腹の中で消化•吸収される割合(%)。
  8. 冠さび病(Puccinia coronata Corda var. coronata):葉に黄~橙色の粉が吹いたように見える。比較的温暖な地域での発生が多く、積雪地では1番草ではあまり見られませんが、二毛作栽培体系では利用しない2番草で発生する。
  9. コントラクター:飼料作物の播種や収穫等の作業を請け負う組織。
<発表論文>
久保田ら(2017)農研機構研究報告 東北農業研究センター、119:17-27
久保田ら(2021)日本草地学会誌、67:17-20
<参考図>
表1イタリアンライグラス「クワトロ-TK5」の特性 

   ***、**はそれぞれ0.1%、1%の危険率で有意差があることを示し、n.s.は有意差がなかったことを示す。複数場所で調査した形質については、各場所•試験年次の値を対応のあるデータとしてt検定を行った。単一場所で調査した形質については、反復毎の値を対応のあるデータとしてt検定を行った。倒伏程度の評点は、全く倒伏がみられず直立している状態を1:微、試験区全体が倒伏して真横に倒れている状態を9:甚とした。

図1「クワトロ-TK5」の1番草乾物収量
積雪地は東北研(岩手)と新潟畜研の平均値。 少雪地は秋田畜試(男鹿)、宮城畜試、家畜改良セ(福島)、富山畜研および石川畜試の平均値。栽培不適地(根雪期間100日以上)は岩手畜研と山形畜研の平均値。-は10cm以上の積雪深が60日以上続かなかったことを示す。

図2融雪後の写真
左:融雪直後(2015年3月19日)、右:出穂前(2015年4月28日)、東北研ほ場 

図3 3月中旬の積雪深から推定される「クワトロ-TK5」の栽培可能地域
「クワトロ-TK5」は3月中旬の積雪深から推定。
「ワセアオバ」は2月下旬の積雪深から推定。
積雪深分布は農研機構メッシュ農業気象データより作成。

図4 東北研における二毛作想定乾物収量(kg/10a)
「クワトロ-TK5」は東北研における小規模試験の4か年の平均値。
「LG30500」は東北研における実規模試験(2022年)の坪刈り収量。
二毛作により土地面積あたりの乾物収量が40%増加する試算。
 
表2東北地域における二毛作栽培暦の一例