2023.01.19(木) |
生物系特定産業技術研究支援センター
介護食(嚥下調整食)に適した粥ゼリー用
米粉の販売
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国立国際医療研究センターを代表機関とする研究グループが開発し実用化した「高アミロース米(※)の米粉から簡易に適切な物性の粥ゼリーを調製する技術」を活用した介護食用米粉「ゼリーノ米粉」が2022年9月に販売された。誰でも簡単に米由来のゼリー状食品を利用することができるようになるため、調理や介護の負担•労力軽減につながることが期待されている。
米粉粥ゼリーのレシピができるまで
日本の死因の第6位は誤嚥性肺炎(令和2年人口動態統計月報年計)で、高齢者の増加に伴い誤嚥による肺炎が増加している。高齢化に伴い、病院や介護施設、在宅介護の食事提供の場面で、飲み込む機能に配慮して調整した介護食のニーズが一段と高まっている。
米は高齢者にとっても有用な主食となるが、一般的な米を飲み込みやすく調製するためには炊飯後にデンプン分解酵素を加えて粘りを予防し、ミキサーでペースト状にしてゲル化剤で固めるといった手順が必要であり、多くの手間がかかっていた。
こうした中、農研機構において米の中でも、デンプン中のアミロースの含有率が高い高アミロース米の粉を用いることにより、米粉に水を加えて混ぜながら沸騰、冷却するだけで、粘りや付着性の低いゼリー状の食品(米粉粥ゼリー)を簡単に得ることができる調理法を発見した(写真1)。
この基礎技術を基に、医療、介護福祉、老年研究、地域支援、農業研究、食品産業などの幅広い分野から現場を熟知した専門家が共同し、適切な物性なのか、味は一般受けするのか、失敗のない調理方法など、実用化に向けた研究が開始された。
高アミロース米の品種は様々あるため、品種によって米粉粥ゼリーの調理特性が異なる他、製粉方法も出来上がりの物性や美味しさに影響を与える。さまざまな品種の米粉を用いてゼリーを試作し、物性測定と試食を繰り返し、どのような条件の米粉、製粉方法が米粉粥ゼリーに適しているかを解析した。
また、研究グループは軽度の嚥下障害患者に米粉粥ゼリーを安全に食べてもらうことができるかの評価試験を行い、嚥下内視鏡検査で食べた米粉粥ゼリーが喉の奥に残っていないか、気管へ入ってしまわないかなどを評価した。
その結果、米粉粥ゼリーは全粥よりは喉に残りにくく、比較的安全に食べることができることが分かり、在宅介護をしている家族や、病院の管理栄養士による試作•試食などを実施し、米粉粥ゼリーが家庭のガスコンロや電子レンジで手軽に調理できるようにレシピを作成した。本研究成果については、特許を出願している(2021年11月18日出願)。
また、このレシピで米粉粥ゼリーを調理した場合、米を炊飯してから粥ができるまでの時間に比べ調理時間を1/2以下に短縮できる。介護では人手不足が問題になっており、食事調理に係る時間の短縮は大きなメリットになる。風味をつけることも容易でバリエーションも期待できる。
写真1 : (左)一般的な米の米粉を調理すると粘りが強く喉に張り付くデンプンのりになる。(右)高アミロース米の米粉を調理すると粘りが少なく喉越しが良いゼリーになる(国立国際医療研究センター提供)。
介護食用米粉が2022年9月に販売開始
開発した米粉粥ゼリーは、臨床的に有用性、安全性が確認され、2022年9月に介護食用米粉「ゼリーノ米粉」として販売された(写真2)。「ゼリーノ米粉」は病院、施設等に販売されているほか、通販サイトで1,600円/kg程度で入手できる。利用者からは「粥ゼリーを簡単に作ることができた」「ミキサーを使わずに作れるのは助かる」との声が届いている。
写真2 : ゼリーノ米粉で作った米粉粥ゼリー(国立国際医療研究センター提供)
将来的には介護食用米粉の輸出へ
最近では東南アジアにおいても高齢化が問題になっている。東南アジアでも主食として馴染みの深い米を使った介護食は受け入れられやすいと考えられる。また、小麦製品に含まれるタンパク質の一種のグルテンを含まない「グルテンフリー」食品として海外でも米粉が注目されていることから、将来は介護食用米粉の輸出も期待される。
研究グループの代表機関である国立国際医療研究センターの藤谷順子科長は、本研究について「今回の研究成果は臨床では大変有用です。さらに米の品種、という素材の持つ力が医療や介護現場で役に立つという視点が、今回のコラボレーションの画期的なところです。連携や情報交換は引き続き重要だと思います」と語っている。本研究成果を取りまとめたウェブサイトが公開されている( https://komeko.ncgm.go.jp/)。
<用語>
高アミロース米 : 一般的な米よりもデンプン中のアミロース含有率が高い(通常25%以上)米品種の総称。
<事業名>
イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)
<事業期間>
令和2年度~令和4年度
<課題名>
米粉を使用した嚥下障害者のための嚥下食の開発
<研究実施機関>
国立国際医療研究センター、農研機構食品研究部門、東京都健康長寿医療センター、福井大学医学部附属病院、駒沢女子大学、緑風荘病院、(株)フードケア、(株)図司穀粉
本研究課題は、農林水産省が運営する異分野融合•産学連携の仕組み『「知」の集積と活用の場』において組織された「次世代育種技術による品種開発推進プラットフォーム」からイノベーション創出強化研究推進事業に応募された課題だ。
https://www.knowledge.maff.go.jp/
米粉粥ゼリーのレシピができるまで
日本の死因の第6位は誤嚥性肺炎(令和2年人口動態統計月報年計)で、高齢者の増加に伴い誤嚥による肺炎が増加している。高齢化に伴い、病院や介護施設、在宅介護の食事提供の場面で、飲み込む機能に配慮して調整した介護食のニーズが一段と高まっている。
米は高齢者にとっても有用な主食となるが、一般的な米を飲み込みやすく調製するためには炊飯後にデンプン分解酵素を加えて粘りを予防し、ミキサーでペースト状にしてゲル化剤で固めるといった手順が必要であり、多くの手間がかかっていた。
こうした中、農研機構において米の中でも、デンプン中のアミロースの含有率が高い高アミロース米の粉を用いることにより、米粉に水を加えて混ぜながら沸騰、冷却するだけで、粘りや付着性の低いゼリー状の食品(米粉粥ゼリー)を簡単に得ることができる調理法を発見した(写真1)。
この基礎技術を基に、医療、介護福祉、老年研究、地域支援、農業研究、食品産業などの幅広い分野から現場を熟知した専門家が共同し、適切な物性なのか、味は一般受けするのか、失敗のない調理方法など、実用化に向けた研究が開始された。
高アミロース米の品種は様々あるため、品種によって米粉粥ゼリーの調理特性が異なる他、製粉方法も出来上がりの物性や美味しさに影響を与える。さまざまな品種の米粉を用いてゼリーを試作し、物性測定と試食を繰り返し、どのような条件の米粉、製粉方法が米粉粥ゼリーに適しているかを解析した。
また、研究グループは軽度の嚥下障害患者に米粉粥ゼリーを安全に食べてもらうことができるかの評価試験を行い、嚥下内視鏡検査で食べた米粉粥ゼリーが喉の奥に残っていないか、気管へ入ってしまわないかなどを評価した。
その結果、米粉粥ゼリーは全粥よりは喉に残りにくく、比較的安全に食べることができることが分かり、在宅介護をしている家族や、病院の管理栄養士による試作•試食などを実施し、米粉粥ゼリーが家庭のガスコンロや電子レンジで手軽に調理できるようにレシピを作成した。本研究成果については、特許を出願している(2021年11月18日出願)。
また、このレシピで米粉粥ゼリーを調理した場合、米を炊飯してから粥ができるまでの時間に比べ調理時間を1/2以下に短縮できる。介護では人手不足が問題になっており、食事調理に係る時間の短縮は大きなメリットになる。風味をつけることも容易でバリエーションも期待できる。
写真1 : (左)一般的な米の米粉を調理すると粘りが強く喉に張り付くデンプンのりになる。(右)高アミロース米の米粉を調理すると粘りが少なく喉越しが良いゼリーになる(国立国際医療研究センター提供)。
介護食用米粉が2022年9月に販売開始
開発した米粉粥ゼリーは、臨床的に有用性、安全性が確認され、2022年9月に介護食用米粉「ゼリーノ米粉」として販売された(写真2)。「ゼリーノ米粉」は病院、施設等に販売されているほか、通販サイトで1,600円/kg程度で入手できる。利用者からは「粥ゼリーを簡単に作ることができた」「ミキサーを使わずに作れるのは助かる」との声が届いている。
写真2 : ゼリーノ米粉で作った米粉粥ゼリー(国立国際医療研究センター提供)
将来的には介護食用米粉の輸出へ
最近では東南アジアにおいても高齢化が問題になっている。東南アジアでも主食として馴染みの深い米を使った介護食は受け入れられやすいと考えられる。また、小麦製品に含まれるタンパク質の一種のグルテンを含まない「グルテンフリー」食品として海外でも米粉が注目されていることから、将来は介護食用米粉の輸出も期待される。
研究グループの代表機関である国立国際医療研究センターの藤谷順子科長は、本研究について「今回の研究成果は臨床では大変有用です。さらに米の品種、という素材の持つ力が医療や介護現場で役に立つという視点が、今回のコラボレーションの画期的なところです。連携や情報交換は引き続き重要だと思います」と語っている。本研究成果を取りまとめたウェブサイトが公開されている( https://komeko.ncgm.go.jp/)。
<用語>
高アミロース米 : 一般的な米よりもデンプン中のアミロース含有率が高い(通常25%以上)米品種の総称。
<事業名>
イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)
<事業期間>
令和2年度~令和4年度
<課題名>
米粉を使用した嚥下障害者のための嚥下食の開発
<研究実施機関>
国立国際医療研究センター、農研機構食品研究部門、東京都健康長寿医療センター、福井大学医学部附属病院、駒沢女子大学、緑風荘病院、(株)フードケア、(株)図司穀粉
本研究課題は、農林水産省が運営する異分野融合•産学連携の仕組み『「知」の集積と活用の場』において組織された「次世代育種技術による品種開発推進プラットフォーム」からイノベーション創出強化研究推進事業に応募された課題だ。
https://www.knowledge.maff.go.jp/