2022.09.03(土) |
キャベツの芯を生まれ変わらせ新素材に
廃棄部位を利用して3Dプリント食品の
表現力を拡大(農研機構)
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農研機構は、乾燥•粉砕して粒の大きさを調整したキャベツの芯を用いることで、歯ごたえのあるペースト状食品を造形できることを見出し、3Dフードプリンタで造形可能な条件を確認した。廃棄部位であるキャベツの芯がもつ栄養•機能性成分を摂取できるだけでなく、その硬さを新たな食感表現の手段として活用することにより、カット野菜製造時などに生じるフードロスの削減が期待できる。
キャベツの芯はキャベツ一玉の生重量の15%程度を占めるが、可食部である葉と比べて硬いために、多くの場合加工段階で切り離されて廃棄される。 日本食品標準成分表 1)2020年版(八訂)でも、キャベツの芯は廃棄部位として位置づけられている。
その一方で食物繊維に加え、ビタミンCなどの栄養や クロロゲン酸 2)などの機能性成分が含まれるキャベツの芯を廃棄することは、 フードロス 3)ともみなされている。これまで腐りやすいキャベツ芯は、その栄養や機能性成分を保持したまま利用するため乾燥微粉末に加工されて、様々な料理に添加されてきたが、微粉末化すると生鮮食品の食感が消失し用途が限定されることが課題となっていた。
そこで本研究では、 次世代食品加工技術 4)として注目される 3Dプリント食品 5)の製造を目指しキャベツの芯の需要拡大に向けた新たな利用方法を開発した。最初にキャベツ芯から粒径1ミリメートル未満の乾燥粗粉末を調製し、吸水後の潰れやすさを調べたところ、芯の硬さを活かした新素材となることを見出した。
この粗粉末をペースト化してシリンジの先端(ノズル内径8ミリメートル)から押し出すことで、粗い表面をもつ棒状の成形物を得ることができた。さらにキャベツ葉由来の微粉末などの軟らかい素材との混合や加水量調整により、3Dフードプリンタで採用されている内径2ミリメートルのノズルを用いても、途中で切れることなく押出成形が可能であることがわかった。
従来の野菜の微粉末を原料とする3Dプリント食品は、いずれも柔らかいペースト状になりやすく、造形する食品の食感表現の幅が狭くなるという課題があった。 カット野菜 6)製造時に発生するキャベツの芯やブロッコリーの茎といった硬すぎて廃棄されてきた食材の粉砕条件を制御することで、3Dプリント食品等の次世代食品に対して咀嚼感(そしゃくかん)などの豊かな食感を付与することが可能になると期待される。今後、この粗粉末を用いた次世代食品加工の幅を拡げつつ、カット野菜製造企業等と連携することでこの新素材の実用化を加速する予定だ。
<関連情報>
予算 : 内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業「フードロス削減とQoL向上を同時に実現する革新的な食ソリューションの開発」(管理法人:生研支援センター)(JPJ009237)、運営費交付金お問い合わせ先など
研究推進責任:農研機構食品研究部門所長 亀山眞由美
研究担当者 : 同食品加工•素材研究領域 バイオ素材開発グループ長 徳安 健
広報担当者 : 同研究推進部 研究推進室長 中村敏英
<詳細情報>
開発の社会的背景
ビタミンや食物繊維などの栄養•機能性成分の供給源となる野菜、果物などの農産物の多くは流通可能期間が短く、短期間で変質•腐敗してしまうためフードロスの原因となる。変質•腐敗を抑制して長期保存する一つの方法として、乾燥•粉砕が挙げられる。保存性に加えて、乾燥•粉砕により微粉末にすることで、部位や個体間のバラツキが均質化され、砂糖や小麦粉のように一定量を量り取って再現性良く調理加工に使えるので利便性も向上する。このような理由から、野菜などを微粉末化するための多くの取り組みがなされてきた。
その一方で、農産物にはそれぞれ固有の食感があり、それを上手く利用した調理加工を通じて私たちは農産物を美味しく摂取し、自然の恵みを実感してきた。しかしながら、微粉末化によってその食感の多くは消失する。例えば、生のキャベツのシャキシャキした食感は微粉末化によって大きく低下する。そのため味、香りや栄養などの価値が保持されているにもかかわらず、この食感消失により微粉末の利用範囲は制限されている。
この問題は、次世代食品加工技術として期待される3Dフードプリンタによる自動調理においても解決すべき課題と言える。いつでも自動調理できるように保存性を高めた野菜•果物の乾燥粉末は、加水すると柔らかいペーストになってしまうため、ビタミンや食物繊維などを次世代加工食品から摂取することを想定した場合、現状の加工成形技術では、個々の野菜•果物類に特有の豊かな食感を与えることが困難となる。
研究の経緯
新たな食感表現力をもつ粉末の原料候補として、現在、廃棄部位扱いとなっているキャベツの芯に注目した。キャベツ一玉の生重量に対して15%程度を占める芯は、玉の内部にあり衛生上の問題はないが、可食部となる葉と比べて硬いために、ほとんどがカット野菜などの製造段階や調理段階で切り離されて廃棄される( 図1)。日本食品標準成分表2020年版(八訂)でも、キャベツの芯は廃棄部位として位置づけられている。その一方で、キャベツの芯には食物繊維に加えて、炭水化物、アミノ酸、ビタミンC、ビタミンU、リン、カリウム、カルシウムなどの栄養やクロロゲン酸、 ケルセチングリコシド 2)などの機能性成分が含まれることが知られている。この硬いキャベツの芯を乾燥•粉砕したものを加水、調理した際に元の硬さが残っていれば、食感表現が可能な新素材としての付加価値が生じ、フードロス削減にも貢献すると考えた。
研究の内容•意義
【キャベツの葉及び芯の乾燥•粉砕】
キャベツの芯部および葉部を分離後に裁断し、沸騰水中で ブランチング 7)した後に乾燥•粉砕し孔径(こうけい)1ミリメートルのふるいを通過した粗粉末としてそれぞれを回収した( 図2)。
【加水した粗粉末の特徴】
芯部および葉部由来の粗粉末の構造を調べるため、粗粉末に加水した後、ガラス板で上下を挟んで、ようかんを咀嚼(そしゃく)する程度の軽めの加圧(約0.1MPa)を行った。その結果、葉部由来の粗粉末では潰れて約2倍の広さに拡がったのに対して、芯部由来のものでは拡大は1.5倍程度留まった( 図3)。ガラス板上部から加圧後の試料を観察すると、葉部由来の粗粉末の潰れた断片が観察されたのに対して、芯部由来の粗粉末では多くの粒状構造物が潰れずに残っていた。そして、加圧を止めて上部のガラス板を外すと、この粒状構造物は加圧前の粒の形に復元した。このように芯部由来の粗粉末は、固く潰れにくく復元性のある構造をもつことが明らかとなった。
【キャベツ芯部由来粗粉末の成形加工試験】
芯部由来粗粉末をペースト化して、棒状の食品として成形加工する試験を行った。その結果、3D成形するため農研機構がすでに開発済みの ナタピューレ 8)を混合して粗粉末をペースト状に結着させ、これを口径8ミリメートルのシリンジから押し出すことで、粗い表面をもつ棒状の成形物を創り出すことができました( 図4)。次に3Dフードプリンタへの適用性を確認するため、市販のキャベツ葉部由来の微粉末(粒径0.3ミリメートル未満)と混合してナタピューレで結着させたペーストを調製し、口径2ミリメートルのシリンジからの押出成形試験を行った。
その結果、全粉末のうち75%を芯部由来の粗粉末とした場合に、射出物が断片化されたのに対して、50%に低減した際にはペーストは切断されずに安定的に押し出されることが判った( 図5左)また、芯部由来粗粉末の添加量が増すにつれて、得られた造形物の表面が粗くなりました( 図5右)。
図6)、加水時の加圧試験では1.3倍程度の低い変形率を示した。このような素材改良を行うことにより、調理加工時の造形安定性や再現性の確保が可能となると考えられる。かん
今後の予定・期待
キャベツの芯やブロッコリーの茎など、可食部よりも硬いために除去される農産物の部位は、カット野菜製造現場などで大量に発生する。現在、このような副生物の多くは廃棄されたり飼料用途に供されたりして、その成分価値は十分に活かされていない。今回、これらの副生物の硬さを新素材として活かせる可能性を示したことで、これらを廃棄せずに利用するための技術開発が加速するものと期待される。そしゃく
また、次世代食品加工装置である3Dフードプリンタで農産物を加工する際には、乾燥•粉砕して貯蔵しておいた農産物を使用時に加水•ペースト化して、これを押し出して造形する工程が想定されている( 図7)。今回、硬い食感を与える新たな粗粉末を3Dプリント工程に活用できる可能性を示した。咀嚼感(そしゃくかん)の付与などを通じて、より豊かな食感表現が可能になるものと期待できる。今後はこの粗粉末を用いた次世代食品加工の幅を拡げつつ、カット野菜製造企業等と連携することでこの新素材の実用化を加速する予定だ。
用語の解説
日本食品標準成分表
給食事業等に加えて、栄養成分表示をする事業者、個人の食事管理におけるニーズの高まりに対応するために文部科学省が公表および改訂を行う、食品に含まれる栄養成分の基礎的データ集。 https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
クロロゲン酸、ケルセチングリコシド
植物に含まれるポリフェノールであり、クロロゲン酸では体脂肪低減、食後血糖値の上昇緩和などの機能性が、そしてケルセチングリコシドでは、抗酸化作用、抗炎症作用などの機能性が注目されている。
フードロス
食べられるのに捨てられてしまう食品を指す。ここでは市場に出回らない規格外等の農産物の廃棄や、廃棄部位として捨てられているキャベツの芯のような、潜在的な可食部位なども考慮した、広義のフードロスとして定義している。
次世代食品加工技術
食料不足、フードロス問題、温室効果ガス発生抑制、生活習慣病予備群増加など喫緊の課題に対応し、問題解決に資するものと期待される革新的な食品製造技術。3Dフードプリント技術や関連するレーザー加熱などの先端加工、昆虫食、代替肉、培養肉等の製造技術などが注目されている。
3Dプリント食品、3Dフードプリンタ
設計図に基づき樹脂などの原料を積層して3次元造形(3Dプリント)するための3Dプリンタを、食品に応用したもの。3Dプリント食品はこの装置により得られる食品。現在、開発が進む多くの装置では、食品素材のペーストを台上に押し出して配置し、それを積層することで立体的な食品を造形している。
カット野菜
収穫後の農産物に対して、洗浄、裁断、ブランチング、殺菌、小分け、配合などの処理を施すことで、家庭などでの料理の時間を節約したり、必要分のみを購入できたりするような付加価値を与えた加工野菜。
ブランチング
野菜などの生鮮食品を乾燥、冷凍などの処理に供する前に、安全性や加工性などに影響を及ぼす物質を不活性化することなどを目的として行う加熱•冷却処理を指す。
ナタピューレ
ナタデココ(酢酸菌由来のセルロースゲル)を脱糖した後に、水溶性多糖(本研究ではタマリンドシードガム)の共存下で、ミキサーにより粉砕したピューレ状の懸濁物。農研機構ではこの懸濁物を農産物の粉末と混合してペースト化することで、粉末の結着性が向上することを確認した。
ナタピューレの参考資料:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nfri/144062.html
発表論文
TOKUYASU Ken, YAMAGISHI Kenji, ANDO Yasumasa, and SHIRAI Nobuya: Cabbage core powder as a new food material for paste preparation with "nata puree". Journal of Applied Glycoscience, doi:10.5458/jag.jag.JAG-2022_0003
参考図
図1キャベツおよびキャベツの芯
左写真:キャベツの玉を半分に割ったもの、右写真:玉から切除•回収したキャベツの芯。
図2キャベツの芯および葉をブランチング、裁断、乾燥および粉砕した後に、孔径1ミリメートルのメッシュ通過画分として回収したもの。
図3加水したキャベツ粗粉末の加圧試験結果の概要
加水後、上部から加圧した際の潰れ具合を、変形前を100%とした際の変形率として示したもの。
図4キャベツ芯部由来の粗粉末にザワークラウトエキスとナタピューレとを混合し、押出成形(筒先内径:8ミリメートル)によって作った棒状食品。造形時に粗粉末が飛び出すことで、表面が粗くなっている。
図53Dフードプリンタで用いられている押出口径(筒先内径:2ミリメートル)からキャベツ由来ペーストを射出した際のペースト組成による形状の違い。
左:組成条件(a~d)で調製したペーストを射出した棒状成形物(各条件で2回試験)
右:同試験で得られた試料の末端部の拡大画像
試料組成:市販キャベツ微粉末(粒径0.3ミリメートル未満)とキャベツ芯部由来粗粉末を下記の重量比で混合し、総重量を揃えたもの
:a(1:0)、b(3:1)、c(1:1)、d(1:3)
図6キャベツ芯部由来の粗粉末(孔径)1ミリメートルのメッシュ通過画分)を、さらに孔径0.5ミリメートルのメッシュに通した際の非通過画分を回収して得た、粒径制御された試料の拡大写真。
図7キャベツ芯部由来粗粉末の活用イメージ。
キャベツの芯はキャベツ一玉の生重量の15%程度を占めるが、可食部である葉と比べて硬いために、多くの場合加工段階で切り離されて廃棄される。 日本食品標準成分表 1)2020年版(八訂)でも、キャベツの芯は廃棄部位として位置づけられている。
その一方で食物繊維に加え、ビタミンCなどの栄養や クロロゲン酸 2)などの機能性成分が含まれるキャベツの芯を廃棄することは、 フードロス 3)ともみなされている。これまで腐りやすいキャベツ芯は、その栄養や機能性成分を保持したまま利用するため乾燥微粉末に加工されて、様々な料理に添加されてきたが、微粉末化すると生鮮食品の食感が消失し用途が限定されることが課題となっていた。
そこで本研究では、 次世代食品加工技術 4)として注目される 3Dプリント食品 5)の製造を目指しキャベツの芯の需要拡大に向けた新たな利用方法を開発した。最初にキャベツ芯から粒径1ミリメートル未満の乾燥粗粉末を調製し、吸水後の潰れやすさを調べたところ、芯の硬さを活かした新素材となることを見出した。
この粗粉末をペースト化してシリンジの先端(ノズル内径8ミリメートル)から押し出すことで、粗い表面をもつ棒状の成形物を得ることができた。さらにキャベツ葉由来の微粉末などの軟らかい素材との混合や加水量調整により、3Dフードプリンタで採用されている内径2ミリメートルのノズルを用いても、途中で切れることなく押出成形が可能であることがわかった。
従来の野菜の微粉末を原料とする3Dプリント食品は、いずれも柔らかいペースト状になりやすく、造形する食品の食感表現の幅が狭くなるという課題があった。 カット野菜 6)製造時に発生するキャベツの芯やブロッコリーの茎といった硬すぎて廃棄されてきた食材の粉砕条件を制御することで、3Dプリント食品等の次世代食品に対して咀嚼感(そしゃくかん)などの豊かな食感を付与することが可能になると期待される。今後、この粗粉末を用いた次世代食品加工の幅を拡げつつ、カット野菜製造企業等と連携することでこの新素材の実用化を加速する予定だ。
<関連情報>
予算 : 内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業「フードロス削減とQoL向上を同時に実現する革新的な食ソリューションの開発」(管理法人:生研支援センター)(JPJ009237)、運営費交付金お問い合わせ先など
研究推進責任:農研機構食品研究部門所長 亀山眞由美
研究担当者 : 同食品加工•素材研究領域 バイオ素材開発グループ長 徳安 健
広報担当者 : 同研究推進部 研究推進室長 中村敏英
<詳細情報>
開発の社会的背景
ビタミンや食物繊維などの栄養•機能性成分の供給源となる野菜、果物などの農産物の多くは流通可能期間が短く、短期間で変質•腐敗してしまうためフードロスの原因となる。変質•腐敗を抑制して長期保存する一つの方法として、乾燥•粉砕が挙げられる。保存性に加えて、乾燥•粉砕により微粉末にすることで、部位や個体間のバラツキが均質化され、砂糖や小麦粉のように一定量を量り取って再現性良く調理加工に使えるので利便性も向上する。このような理由から、野菜などを微粉末化するための多くの取り組みがなされてきた。
その一方で、農産物にはそれぞれ固有の食感があり、それを上手く利用した調理加工を通じて私たちは農産物を美味しく摂取し、自然の恵みを実感してきた。しかしながら、微粉末化によってその食感の多くは消失する。例えば、生のキャベツのシャキシャキした食感は微粉末化によって大きく低下する。そのため味、香りや栄養などの価値が保持されているにもかかわらず、この食感消失により微粉末の利用範囲は制限されている。
この問題は、次世代食品加工技術として期待される3Dフードプリンタによる自動調理においても解決すべき課題と言える。いつでも自動調理できるように保存性を高めた野菜•果物の乾燥粉末は、加水すると柔らかいペーストになってしまうため、ビタミンや食物繊維などを次世代加工食品から摂取することを想定した場合、現状の加工成形技術では、個々の野菜•果物類に特有の豊かな食感を与えることが困難となる。
研究の経緯
新たな食感表現力をもつ粉末の原料候補として、現在、廃棄部位扱いとなっているキャベツの芯に注目した。キャベツ一玉の生重量に対して15%程度を占める芯は、玉の内部にあり衛生上の問題はないが、可食部となる葉と比べて硬いために、ほとんどがカット野菜などの製造段階や調理段階で切り離されて廃棄される( 図1)。日本食品標準成分表2020年版(八訂)でも、キャベツの芯は廃棄部位として位置づけられている。その一方で、キャベツの芯には食物繊維に加えて、炭水化物、アミノ酸、ビタミンC、ビタミンU、リン、カリウム、カルシウムなどの栄養やクロロゲン酸、 ケルセチングリコシド 2)などの機能性成分が含まれることが知られている。この硬いキャベツの芯を乾燥•粉砕したものを加水、調理した際に元の硬さが残っていれば、食感表現が可能な新素材としての付加価値が生じ、フードロス削減にも貢献すると考えた。
研究の内容•意義
【キャベツの葉及び芯の乾燥•粉砕】
キャベツの芯部および葉部を分離後に裁断し、沸騰水中で ブランチング 7)した後に乾燥•粉砕し孔径(こうけい)1ミリメートルのふるいを通過した粗粉末としてそれぞれを回収した( 図2)。
【加水した粗粉末の特徴】
芯部および葉部由来の粗粉末の構造を調べるため、粗粉末に加水した後、ガラス板で上下を挟んで、ようかんを咀嚼(そしゃく)する程度の軽めの加圧(約0.1MPa)を行った。その結果、葉部由来の粗粉末では潰れて約2倍の広さに拡がったのに対して、芯部由来のものでは拡大は1.5倍程度留まった( 図3)。ガラス板上部から加圧後の試料を観察すると、葉部由来の粗粉末の潰れた断片が観察されたのに対して、芯部由来の粗粉末では多くの粒状構造物が潰れずに残っていた。そして、加圧を止めて上部のガラス板を外すと、この粒状構造物は加圧前の粒の形に復元した。このように芯部由来の粗粉末は、固く潰れにくく復元性のある構造をもつことが明らかとなった。
【キャベツ芯部由来粗粉末の成形加工試験】
芯部由来粗粉末をペースト化して、棒状の食品として成形加工する試験を行った。その結果、3D成形するため農研機構がすでに開発済みの ナタピューレ 8)を混合して粗粉末をペースト状に結着させ、これを口径8ミリメートルのシリンジから押し出すことで、粗い表面をもつ棒状の成形物を創り出すことができました( 図4)。次に3Dフードプリンタへの適用性を確認するため、市販のキャベツ葉部由来の微粉末(粒径0.3ミリメートル未満)と混合してナタピューレで結着させたペーストを調製し、口径2ミリメートルのシリンジからの押出成形試験を行った。
その結果、全粉末のうち75%を芯部由来の粗粉末とした場合に、射出物が断片化されたのに対して、50%に低減した際にはペーストは切断されずに安定的に押し出されることが判った( 図5左)また、芯部由来粗粉末の添加量が増すにつれて、得られた造形物の表面が粗くなりました( 図5右)。
図6)、加水時の加圧試験では1.3倍程度の低い変形率を示した。このような素材改良を行うことにより、調理加工時の造形安定性や再現性の確保が可能となると考えられる。かん
今後の予定・期待
キャベツの芯やブロッコリーの茎など、可食部よりも硬いために除去される農産物の部位は、カット野菜製造現場などで大量に発生する。現在、このような副生物の多くは廃棄されたり飼料用途に供されたりして、その成分価値は十分に活かされていない。今回、これらの副生物の硬さを新素材として活かせる可能性を示したことで、これらを廃棄せずに利用するための技術開発が加速するものと期待される。そしゃく
また、次世代食品加工装置である3Dフードプリンタで農産物を加工する際には、乾燥•粉砕して貯蔵しておいた農産物を使用時に加水•ペースト化して、これを押し出して造形する工程が想定されている( 図7)。今回、硬い食感を与える新たな粗粉末を3Dプリント工程に活用できる可能性を示した。咀嚼感(そしゃくかん)の付与などを通じて、より豊かな食感表現が可能になるものと期待できる。今後はこの粗粉末を用いた次世代食品加工の幅を拡げつつ、カット野菜製造企業等と連携することでこの新素材の実用化を加速する予定だ。
用語の解説
日本食品標準成分表
給食事業等に加えて、栄養成分表示をする事業者、個人の食事管理におけるニーズの高まりに対応するために文部科学省が公表および改訂を行う、食品に含まれる栄養成分の基礎的データ集。 https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
クロロゲン酸、ケルセチングリコシド
植物に含まれるポリフェノールであり、クロロゲン酸では体脂肪低減、食後血糖値の上昇緩和などの機能性が、そしてケルセチングリコシドでは、抗酸化作用、抗炎症作用などの機能性が注目されている。
フードロス
食べられるのに捨てられてしまう食品を指す。ここでは市場に出回らない規格外等の農産物の廃棄や、廃棄部位として捨てられているキャベツの芯のような、潜在的な可食部位なども考慮した、広義のフードロスとして定義している。
次世代食品加工技術
食料不足、フードロス問題、温室効果ガス発生抑制、生活習慣病予備群増加など喫緊の課題に対応し、問題解決に資するものと期待される革新的な食品製造技術。3Dフードプリント技術や関連するレーザー加熱などの先端加工、昆虫食、代替肉、培養肉等の製造技術などが注目されている。
3Dプリント食品、3Dフードプリンタ
設計図に基づき樹脂などの原料を積層して3次元造形(3Dプリント)するための3Dプリンタを、食品に応用したもの。3Dプリント食品はこの装置により得られる食品。現在、開発が進む多くの装置では、食品素材のペーストを台上に押し出して配置し、それを積層することで立体的な食品を造形している。
カット野菜
収穫後の農産物に対して、洗浄、裁断、ブランチング、殺菌、小分け、配合などの処理を施すことで、家庭などでの料理の時間を節約したり、必要分のみを購入できたりするような付加価値を与えた加工野菜。
ブランチング
野菜などの生鮮食品を乾燥、冷凍などの処理に供する前に、安全性や加工性などに影響を及ぼす物質を不活性化することなどを目的として行う加熱•冷却処理を指す。
ナタピューレ
ナタデココ(酢酸菌由来のセルロースゲル)を脱糖した後に、水溶性多糖(本研究ではタマリンドシードガム)の共存下で、ミキサーにより粉砕したピューレ状の懸濁物。農研機構ではこの懸濁物を農産物の粉末と混合してペースト化することで、粉末の結着性が向上することを確認した。
ナタピューレの参考資料:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nfri/144062.html
発表論文
TOKUYASU Ken, YAMAGISHI Kenji, ANDO Yasumasa, and SHIRAI Nobuya: Cabbage core powder as a new food material for paste preparation with "nata puree". Journal of Applied Glycoscience, doi:10.5458/jag.jag.JAG-2022_0003
参考図
図1キャベツおよびキャベツの芯
左写真:キャベツの玉を半分に割ったもの、右写真:玉から切除•回収したキャベツの芯。
図2キャベツの芯および葉をブランチング、裁断、乾燥および粉砕した後に、孔径1ミリメートルのメッシュ通過画分として回収したもの。
図3加水したキャベツ粗粉末の加圧試験結果の概要
加水後、上部から加圧した際の潰れ具合を、変形前を100%とした際の変形率として示したもの。
図4キャベツ芯部由来の粗粉末にザワークラウトエキスとナタピューレとを混合し、押出成形(筒先内径:8ミリメートル)によって作った棒状食品。造形時に粗粉末が飛び出すことで、表面が粗くなっている。
図53Dフードプリンタで用いられている押出口径(筒先内径:2ミリメートル)からキャベツ由来ペーストを射出した際のペースト組成による形状の違い。
左:組成条件(a~d)で調製したペーストを射出した棒状成形物(各条件で2回試験)
右:同試験で得られた試料の末端部の拡大画像
試料組成:市販キャベツ微粉末(粒径0.3ミリメートル未満)とキャベツ芯部由来粗粉末を下記の重量比で混合し、総重量を揃えたもの
:a(1:0)、b(3:1)、c(1:1)、d(1:3)
図6キャベツ芯部由来の粗粉末(孔径)1ミリメートルのメッシュ通過画分)を、さらに孔径0.5ミリメートルのメッシュに通した際の非通過画分を回収して得た、粒径制御された試料の拡大写真。
図7キャベツ芯部由来粗粉末の活用イメージ。