2022.04.02(土) |
地域経済を活性化する国産デュラム小麦
「セトデュール」、農研機構西日本農業研究
センターと(株)ニップンとの共同研究で育成
|
---|
国内で製造されるパスタの原料小麦は、ほとんどが海外産のデュラム小麦だが、ここ数年、兵庫県を中心に国産のデュラム小麦を使ったパスタ製品が次々に誕生している。きっかけは農研機構西日本農業研究センターと(株)ニップンとの共同研究で育成された日本初のデュラム小麦品種「セトデュール」。兵庫県、企業、生産者などによる栽培試験や製品開発の努力が実り、栽培から製麺までのすべてが国産という待望のパスタが実現した。最近は関東でもお目見えし、食育の観点からも注目されている。
兵庫生まれの純国産パスタ
兵庫県加古川市の地域名を冠した純国産のパスタ「加古川パスタ」が、2016年から兵庫県南部のJA兵庫南管内の直売所で販売されている(写真1)。このパスタは日本初の国産デュラム小麦品種「セトデュール」を100%使った乾麺パスタである。同小麦を栽培する加古川市の農事組合法人八幡営農組合(約640農家加入)が地元の工場に製造を委託した独自のブランド商品だ。
「加古川パスタ」は、地元のデパートでも売られるほど有名になり、同組合は「令和2年度地産地消等優良活動表彰」(農林水産省と全国地産地消推進協議会主催)で農林水産大臣賞(生産部門)を受賞した。さらに2021年には兵庫県の安全安心基準を満たす「ひょうご安心ブランド」にも認証されている。
また、同組合は農家レストランなどを営む農業生産法人小川農園(株)(兵庫県姫路市)とコラボして、6種類の「加古川生パスタ」(写真1)を開発し、売り出している。兵庫県内のレストランでも「セトデュール」を使ったパスタ料理(写真2)が提供されている。「加古川パスタ」の開発を支援した兵庫県も普及に並々ならぬ力を入れており、その誕生経過を熱く伝える冊子「加古川パスタ物語」(兵庫県のウェブサイトで閲覧可能)を発行している(写真2)。
写真1:「セトデュール」を使い、「加古川」の名を冠したパスタ製品(兵庫県提供)
写真2:レストランのパスタ料理(左)と兵庫県が作成した「加古川パスタ物語」(右)
(いずれも兵庫県提供)
関東にも波及
また、ニップングループのオーマイ(株)は2018年から「セトデュール」100%の「瀬戸内生まれのスパゲッティ」(写真3)を製造し、関西のスーパーで販売している。「セトデュール」のパスタは黄色みが強く、適度に硬く、弾力性があって歯切れもよく、パスタらしい食感を味わえるのが大きな魅力だ。
その人気ぶりは関東にも波及し、パスタの製造•販売を営む(株)ニューオークボ(千葉県柏市)は2020年から「セトデュール」100%のリングイネ(スパゲッティを押しつぶしたような、断面が楕円形のロングパスタ)を販売しており、テレビ番組でも紹介された。また、日本各地から高速バスの空きトランクにおいしい食材を載せて東京の新宿に届ける屋外型オープンテラス「バスあいのり3丁目テラス」(東京都新宿区)では加古川パスタサラダが提供されている
写真3:オーマイ株式会社が製造販売している「瀬戸内生まれのスパゲッティ」
日本初のデュラム小麦品種「セトデュール」誕生と栽培法の確立
国内では以前から「乾燥に適したデュラム小麦の栽培は困難」と考えられていた。しかし、農研機構西日本農業研究センターは「降雨が比較的少なく、温暖な瀬戸内地域なら栽培できる可能性がある」と考え、1998年から瀬戸内地域に適したデュラム小麦の育種を始めた。その結果、米国とイタリアのデュラム小麦品種を交配させて生まれた後代から、瀬戸内地域にふさわしい品種を選抜して、「セトデュール」(写真4)が生まれた。栽培適地である瀬戸内地域の「セト」、ラテン語で「硬い」を意味する「デュール」から命名されている。
それでも雨が多いと発生しやすい赤かび病には弱く、成熟期がやや遅いという弱みがある。そこで、麦の特性などを研究していた(株)ニップンと小麦栽培パートナーの農事組合法人八幡営農組合、兵庫県などが協力して栽培試験などの共同研究を始め、約7年の歳月を経て2016年にようやく商用ベースでの栽培が確立した。同センターはより一層の普及を目指し、「デュラム小麦『セトデュール』の栽培指針」を作成している。
現在、「セトデュール」は兵庫県加古川市を中心に約30haで栽培され、年間100t前後が収穫されている。2022年度は年間150tの収穫を目標にしている。
写真4:穂をつけたセトデュール(農研機構西日本農業研究センター提供)
食育の観点からも注目
純国産の「加古川パスタ」は地産地消を重視する食育の観点からも注目されている。兵庫県加古川市の全ての小学校と一部の中学校、養護学校では2019年度から学校給食に「加古川パスタ」を使った料理が提供されており、2022年3月には兵庫県小野市の学校給食での提供が決まった。こうした地元完結型の食材提供は、食育のあるべき姿としてさらに広がっていきそうだ。
事業名:農林水産業•食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
事業期間:平成27年度~平成30年度
課題名:国産のデュラム小麦品種の栽培と純国産パスタ製品の開発
研究実施機関:日本製粉(株)(現(株)ニップン)、兵庫県立農林水産技術総合センター、山口県農林総合技術センター、農研機構西日本農業研究センター
兵庫生まれの純国産パスタ
兵庫県加古川市の地域名を冠した純国産のパスタ「加古川パスタ」が、2016年から兵庫県南部のJA兵庫南管内の直売所で販売されている(写真1)。このパスタは日本初の国産デュラム小麦品種「セトデュール」を100%使った乾麺パスタである。同小麦を栽培する加古川市の農事組合法人八幡営農組合(約640農家加入)が地元の工場に製造を委託した独自のブランド商品だ。
「加古川パスタ」は、地元のデパートでも売られるほど有名になり、同組合は「令和2年度地産地消等優良活動表彰」(農林水産省と全国地産地消推進協議会主催)で農林水産大臣賞(生産部門)を受賞した。さらに2021年には兵庫県の安全安心基準を満たす「ひょうご安心ブランド」にも認証されている。
また、同組合は農家レストランなどを営む農業生産法人小川農園(株)(兵庫県姫路市)とコラボして、6種類の「加古川生パスタ」(写真1)を開発し、売り出している。兵庫県内のレストランでも「セトデュール」を使ったパスタ料理(写真2)が提供されている。「加古川パスタ」の開発を支援した兵庫県も普及に並々ならぬ力を入れており、その誕生経過を熱く伝える冊子「加古川パスタ物語」(兵庫県のウェブサイトで閲覧可能)を発行している(写真2)。
写真1:「セトデュール」を使い、「加古川」の名を冠したパスタ製品(兵庫県提供)
写真2:レストランのパスタ料理(左)と兵庫県が作成した「加古川パスタ物語」(右)
(いずれも兵庫県提供)
関東にも波及
また、ニップングループのオーマイ(株)は2018年から「セトデュール」100%の「瀬戸内生まれのスパゲッティ」(写真3)を製造し、関西のスーパーで販売している。「セトデュール」のパスタは黄色みが強く、適度に硬く、弾力性があって歯切れもよく、パスタらしい食感を味わえるのが大きな魅力だ。
その人気ぶりは関東にも波及し、パスタの製造•販売を営む(株)ニューオークボ(千葉県柏市)は2020年から「セトデュール」100%のリングイネ(スパゲッティを押しつぶしたような、断面が楕円形のロングパスタ)を販売しており、テレビ番組でも紹介された。また、日本各地から高速バスの空きトランクにおいしい食材を載せて東京の新宿に届ける屋外型オープンテラス「バスあいのり3丁目テラス」(東京都新宿区)では加古川パスタサラダが提供されている
写真3:オーマイ株式会社が製造販売している「瀬戸内生まれのスパゲッティ」
日本初のデュラム小麦品種「セトデュール」誕生と栽培法の確立
国内では以前から「乾燥に適したデュラム小麦の栽培は困難」と考えられていた。しかし、農研機構西日本農業研究センターは「降雨が比較的少なく、温暖な瀬戸内地域なら栽培できる可能性がある」と考え、1998年から瀬戸内地域に適したデュラム小麦の育種を始めた。その結果、米国とイタリアのデュラム小麦品種を交配させて生まれた後代から、瀬戸内地域にふさわしい品種を選抜して、「セトデュール」(写真4)が生まれた。栽培適地である瀬戸内地域の「セト」、ラテン語で「硬い」を意味する「デュール」から命名されている。
それでも雨が多いと発生しやすい赤かび病には弱く、成熟期がやや遅いという弱みがある。そこで、麦の特性などを研究していた(株)ニップンと小麦栽培パートナーの農事組合法人八幡営農組合、兵庫県などが協力して栽培試験などの共同研究を始め、約7年の歳月を経て2016年にようやく商用ベースでの栽培が確立した。同センターはより一層の普及を目指し、「デュラム小麦『セトデュール』の栽培指針」を作成している。
現在、「セトデュール」は兵庫県加古川市を中心に約30haで栽培され、年間100t前後が収穫されている。2022年度は年間150tの収穫を目標にしている。
写真4:穂をつけたセトデュール(農研機構西日本農業研究センター提供)
食育の観点からも注目
純国産の「加古川パスタ」は地産地消を重視する食育の観点からも注目されている。兵庫県加古川市の全ての小学校と一部の中学校、養護学校では2019年度から学校給食に「加古川パスタ」を使った料理が提供されており、2022年3月には兵庫県小野市の学校給食での提供が決まった。こうした地元完結型の食材提供は、食育のあるべき姿としてさらに広がっていきそうだ。
事業名:農林水産業•食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
事業期間:平成27年度~平成30年度
課題名:国産のデュラム小麦品種の栽培と純国産パスタ製品の開発
研究実施機関:日本製粉(株)(現(株)ニップン)、兵庫県立農林水産技術総合センター、山口県農林総合技術センター、農研機構西日本農業研究センター