2021.03.18(木) |
外食•中食向けの多収•良食味米品種 「ちほみのり」標準作業手順書を ウェブサイト公開(農研機構) |
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農研機構はこれまで育成した多収で良食味の米品種のうち、生産•実需の両者から評価が高く、近年需要が伸びている外食•中食向け重点的普及品種のひとつである「ちほみのり」について、今後さらなる普及拡大を進めるために、18日にその 標準作業手順書 1)をウェブサイトで公開した。
わが国の米の消費量は食生活の多様化、人口の減少、昨今のコロナ禍の影響で、外食は減少傾向にあるが、米消費全体に占める外食と中食の割合は増加傾向にあり、今後さらに外食•中食は米消費の重要な位置付けになっていくことは間違いない。
外食•中食に適する米とは、①良食味でありながら比較的低価格で取り引きされること、②収量性が高いこと、③大規模な水田での効率的な農作業を行う栽培に向くこと、すなわちこれまで以上に生産者にとって「作りやすく、たくさんとれて、売りやすいイネ」が求められる。
特に最近育成した東北地域向け品種「ちほみのり」と東北地域中南部~中国•四国地域向け品種「つきあかり」は、収量性や食味の点で実需者の評価が高く、普及面積が急速に増加していること、2018年に育成された北関東~西日本地域向け品種「にじのきらめき」も実需者の評価が高く今後急速に普及することが期待されている。
農研機構はこの3品種を「重点普及成果」として位置づけ、普及拡大を図るため標準作業手順書を作った。「つきあかり」「にじのきらめき」の標準作業手順書はすでに公開されており、これに続き「ちほみのり」の標準作業手順書を以下のウェブサイトにて本日公開した。
公開した標準作業手順書では「ちほみのり」の多収•良食味の優位性や導入時に必要な手順、留意点が解説されている。本標準手順書の公開により、「ちほみのり」の生産、実需の両面でのより一層の普及拡大が期待される。
【標準手順書掲載URL】
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/138078.html
<関連情報>
予算: 運営費交付金
品種登録番号: 第26435号
お問い合わせ
研究推進責任者: 農研機構東北農業研究センター所長 湯川智行
研究担当者: 同水田作研究領域グループ長 太田久稔
開発の社会的背景•経緯
わが国の米の消費量は、食生活の変化にともない年々減少傾向にある。1人当たり年間消費量は、1962年の118.3kgをピークに低下し続け、2017年にはその半分以下の54.2kgになっている。このような状況の中で、米消費全体に占める外食(家庭外で食事をする形態)と中食(家庭外で調理されたものを購入して家庭内などで食事をする形態)の割合は増加傾向にある。
外食と中食を合わせた消費量の割合は、1985年には全体の15%程度であったものが、2016年には30%を超えるようになった。米穀安定供給確保支援機構は、2035年には40%とさらに増加する可能性があると推計している。コロナ禍で外食による消費は減少している状況だが、外食•中食による消費は今後さらに重要な位置付けになっていくことは間違いない。
2020年に策定された食料•農業•農村基本計画においても、社会構造やライフスタイルの変化に伴い、食の外部化が進展することをふまえて、加工•業務用等の需要へ対応することが重要であるとされている。外食•中食に適する米には、「コシヒカリ」などに代表される良食味ブランド米とは異なり、良食味でありながら比較的低価格で取り引きされること、すなわち収量性が高いことが求められる。また、農業就労者の減少や高齢化に伴い、水田栽培面積の大規模化が進んでおり生産者からは効率的な農作業を可能にする品種が選択されるようになってきている。すなわちこれまで以上に生産者にとって「作りやすく、たくさんとれて、売りやすいイネ」が求められる。
外食•中食用米に農研機構育成品種が占める割合は約10%。特に最近育成した「ちほみのり」「つきあかり」は、収量性や食味の点で実需者の評価が高く、普及面積が急速に増加していること、2018年に育成された「にじのきらめき」も実需者の評価が高く、今後急速に普及することが期待されている。農研機構はこの3品種を「重点普及成果」として位置づけ、普及拡大を図るため標準作業手順書を作った。「つきあかり」「にじのきらめき」の標準作業手順書はすでに公開されており、これに続き「ちほみのり」の標準作業手順書を作成した。
研究の内容•意義
1) 本手順書I章「多収•良食味米品種とは」において、多収•良食味米品種とはどのような品種であるか紹介している。
2) 本手順書II章「多収•良食味米品種「ちほみのり」の概要」において、「ちほみのり」は出穂が.「あきたこまち」よりやや早く、短稈で直播栽培に適した品種であること、「あきたこまち」より1~3割多収で食味は同程度であること等を紹介している。
3) 本手順書III章「多収•良食味米品種「ちほみのり」の栽培技術」において、「ちほみのり」の栽培暦( 図2)、収量構成要素の目安、「あきたこまち」より倒れ難い特長を活かした多肥栽培など多収栽培のポイント、栽培上の留意点について紹介している。
4) 本手順書IV章「多収•良食味米品種「ちほみのり」の導入事例」において、秋田県大潟村で「あきたこまち」と比べて9~52%多収だった等の試験結果を紹介している。
5) 本手順書V章「多収・良食味米品種「ちほみのり」の導入手順」において、種子の入手先を紹介している。
6) 本手順書VI章「技術導入の経営的効果」において、「ちほみのり」の60kg当たりの価格が「あきたこまち」等より2000円安かったとしても、「あきたこまち」等の10アール当たり収量540kgに対し、630kgを超える収量があれば収益増になるなど、導入による経済効果の試算を紹介している( 表1)。
7) 本手順書のII章は主に実需者の皆様向け、III章は主に生産者の皆様向けの内容だ。
今後の予定•期待
多収•良食味米3品種の普及にあたっては、生産者が希望する熟期(収穫時期)や特性にあわせて、栽培する品種を推薦することになる。例えば「コシヒカリ」並の熟期の品種を希望するのであれば、「にじのきらめき」が「あきたこまち」並の熟期であれば「つきあかり」や「ちほみのり」となる。また、「あきたこまちクラス熟期」で、直播栽培への導入を希望する場合は、「ちほみのり」を推薦することになる。多収で良食味の品種「ちほみのり」の普及に向けて本作業手順書を有効に活用していただければ幸いだ。
用語の解説
1)標準作業手順書(SOP: Standard Operation Procedures)技術の必要性、導入の条件、具体的
な導入手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し
社会実装(普及)を進める方針としている。
発表論文
多収で直播栽培向きの良食味水稲品種「ちほみのり」の育成
東北農研研報 Bull. Tohoku Agric. Res. Cent. 118, 37-48(2016)
<参考図>
図1標準手順書の表紙
図2「ちほみのり」の栽培暦
表1「ちほみのり」導入の経済効果(試算)