2016.11.24(木) |
肥満、糖尿病の予防・重症化予防につながる |
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公益社団法人日本医師会と公益社団法人米穀安定供給確保支援機構は、11月10日(木)に、日本医師会館大講堂(東京•駒込)において、ごはんを主食とした日本型食生活の生活習慣病予防•治療における有用性等について考える「食育健康サミット」を開催した。
これは、医師、栄養士などの方々を対象に毎年開催されるサミットで、本年度は「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」をテーマに開催した。東京大学大学院医学系研究科糖尿病•代謝内科教授の門脇孝先生など4人の専門家による最新の研究を基にした講演とパネルディスカッションを実施。会場に集まった参加者は、肥満症や糖尿病の治療にあたる医師や栄養士など655人で、熱心に講演に耳を傾ける姿が見られた。
テーマ「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」について
健康寿命とは、健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間を意味する。健康寿命延伸のためには、循環器疾患や糖尿病などの生活習慣病の予防が重要とされ、生活習慣病の主なリスクファクターとして肥満が挙げられる。肥満の予防には生活習慣、特に身体活動•運動と食事の管理が重要になってくる。
食事は、個人の身体状況や嗜好性などを考慮して、楽しみながら実践し、継続していけるよう、安全で、食文化や食習慣にも配慮することが大切だ。そこで、本年度の食育健康サミットでは、健康寿命延伸にむけて、肥満、糖尿病の予防、重症化予防のため、身体活動•運動の役割と適正なエネルギー量で、適正なエネルギー産生栄養素のバランスを図る食事を提供できる日本型食生活の役割について考えた。
〈基 調 講 演〉
4人の専門家を講師に招き、肥満、糖尿病の予防・重症化予防を目的とした、食事の管理と身体活動•運動について、各分野における最新の研究結果、日ごろの診療や栄養指導•運動指導に有用なデータを紹介いただいた。
講演Ⅰ
テーマ:食事摂取基準 -栄養管理のコアとしてのガイドライン
講 師:東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
内 容:厚生労働省から発表されている「食事摂取基準」は、栄養管理の基盤となるガイドラインである。最新版の『日本人の食事摂取基準(2015年版)』では、エネルギー管理はこれまでのエネルギー必要量からBMI※の変化で管理することに変更された。どのくらいのBMI が望ましいのか、BMI と総死亡率との関連を調べた疫学研究を参考にして、目標とするBMIが年齢階級別に定められている。BMIの望ましい数値の上限はどの年齢でも24.9以下であるが、下限は年齢で異なり、70歳以上の高齢者では21.5以上と高めに設定されている。※ BMI(body mass index)=体重(㎏)÷身長(m)2
日本人の栄養素摂取の課題は、食物繊維の不足と食塩の過剰摂取である。食物繊維の充足のためには、きちんと穀類や野菜、果物を摂取することを推奨する。また、食塩摂取量はここ30年で大きな変化が見られていない。高血圧の予防•改善のためにも、一段の減塩対策を行ってほしい。
栄養指導•食事管理においては、「PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル」に基づく運用を勧めている。対象者の食事摂取状況の把握と評価を行い、個人に適したプランを策定し、より良い方向に導いていただきたい。
講演Ⅱ
テーマ:糖尿病の成因とその予防、治療のための健康的な食事と運動の勧め
講 師:東京大学大学院医学系研究科糖尿病•代謝内科教授 門脇孝先生
内 容:日本における糖尿病患者数は950万人で、予備群を含めると2,050万人。糖尿病の予防•治療には、原因である肥満と内蔵脂肪蓄積の改善が必要である。
糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病性腎症など合併症を発症しやすい。また、糖尿病患者の多くは高齢者であることから、筋肉量が減少するサルコペニアにも注意が必要である。
予防と治療には、「運動と食事」による体重管理が効果的で、3~5%体重を減らすことより血糖値だけでなく血圧、中性脂肪等の血液中の脂質も改善される。日本肥満学会では、3kgの減量、3cmのウエスト周囲径の短縮を提唱する「サンサン運動」を展開している。
食事療法のガイドラインとして、栄養素の摂取比率は、炭水化物がエネルギーの50~60%、たんぱく質が約20%以下、残りを脂質とするが、その比率は個人の病態や嗜好、年齢に応じて考慮が必要である。
高脂肪食、特に肉等の飽和脂肪酸の多い食事は、レプチンというエネルギー消費を促進するホルモンの働きが弱くなり肥満を促進するが、通常の日本食では、多少の過食があったとしてもレプチンがきちんと分泌され、肥満を抑制している。運動療法では、インスリンの感受性を高める歩行等の有酸素運動と、スクワット等のレジスタンス運動(筋力を鍛える運動)の組み合わせを勧める。
講演Ⅲ
テーマ:肥満の予防と肥満症治療のための食事管理
講 師:公益財団法人結核予防会 総合健診推進センター所長 宮崎滋先生
内 容:「肥満症診断ガイドライン2016」では、「肥満」と「肥満症」を区別している。「肥満」の定義は、BMIが25以上で脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積している状態である。「肥満症」は肥満に起因して糖尿病や脂質異常症など健康障害を合併している治療すべき肥満を指す。さらにBMI35以上の肥満症を「高度肥満症」としている。
肥満症の治療の基本は食事療法で、6カ月かけて3%の体重減を目指す。減量の計算では、脂肪組織1kgを約7,200kcalと置き替える。1日に300kcalを削減すると1カ月で体脂肪1㎏の減量が可能である。
減量のための食事では、筋肉が減少するタイプの肥満「サルコペニア肥満」を避けるため、たんぱく質の摂取量を確保してほしい。また、炭水化物の制限は、長期的に見ると心筋梗塞など疾病のリスクを高めるので好ましくない。
ごはんを中心とした食事は、低エネルギーでいて満腹感が得られ、魚や野菜と組み合わせたバランスのよい献立を作りやすい。ごはんは食事誘発性熱産生を高めるという報告もあり、減量のための食事として推奨する。
講演Ⅳ
テーマ:肥満や糖尿病の予防・改善のための身体活動•運動
講 師:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長 宮地元彦先生
内 容:運動•身体活動は、糖尿病の予防のみならず治療においても有効であることが多くの介入研究から証明されている。
糖尿病患者のための運動療法として、有酸素性運動にレジスタンス運動(筋力を鍛える運動)を組み合わせることが有効で、歩く等の中強度の運動を1日に20分~60分程度、少なくとも週に3日程度行うことを目安にしている。とはいえ、運動習慣を確立するのはむずかしい。意図をもって、余暇時間に計画的に行う運動だけでなく、家事や通勤歩行等の生活活動を含めた身体活動を増やす支援をしていくことが重要になる。厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」において、今より毎日10分多く体を動かす「+10(プラス•テン)」を提案している。
中高年の方が減量をする際には、筋量あるいは筋力が低下しないように留意してほしい。筋量の向上には高強度、筋力の向上には中強度のレジスタンストレーニングが有効である。実施には、①鍛える筋や関節を意識して、②辛いと感じる程度で限界までやらない、③最低でも週2回、できれば毎日、④呼吸をとめずに、⑤体調の悪い時には、無理をせず、⑥疾患や痛みがあったら医師に相談をすることを念頭に実施してほしい。推奨できる種目は、スクワット、腕立て伏せ、上体起こし、上体反らしの4つが挙げられる。
〈パネルディスカッション〉
「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防•重症化予防-日本型食生活の役割」をテーマにしたパネルディスカッションは、参加者から寄せられた質問に、4人の先生がそれぞれの分野の知見に基づき回答をするスタイルで討議を進行した。主な発言要旨である。
〈糖質制限食について〉
■佐々木先生は、糖質制限食(炭水化物:全体のエネルギーの約45%、脂質:約40%、たんぱく質約15%)と脂質制限食(脂質:全体のエネルギーの約20~25%、炭水化物:約60~65%、たんぱく質約15%)の比較調査において、どちらの方法でも同じエネルギー量であれば、同様に減量効果が見られたことを紹介された。
■宮崎先生は、日本人の平均寿命延伸の背景に、ごはんを基本とした日本型食生活があることを説明。糖質制限食により食事内容が高脂質食になり、心筋梗塞などの疾病リスクが高まることを懸念した。
〈食事で野菜を先に食べる食事法の有効性について〉
■佐々木先生は、食事で野菜を先に食べると血糖値の上昇が抑えられるという研究がある一方、一つの食材をまとめて食べることで、早食いの傾向になることを指摘。ゆっくり食べる人ほど糖尿病罹患者が少なくなるという調査結果に触れ、時間をかけてごはんとおかずを交互に食べる“三角食べ”が持つ健康効果を紹介した。
■座長の門脇先生は、食後の血糖上昇を防ぐ点からも、食物繊維摂取量を増やすことの重要性、よく噛んで食べる習慣のメリットを話された。
■宮地先生は、よく噛む人は食後の食事誘発性消費量が増えるという研究結果に触れ、ひとくちで20回以上噛む習慣を勧めた。
〈減量指導の目標について〉
■宮崎先生は、患者さんに対してたんに痩せることだけを目的にせず、医療としての減量を提案することの大切さを語った。肥満自体の解消は難しくても、肥満に伴う健康障害の改善を第一の目標に現体重の3%の減量を行う提案がなされた。
〈肥満症とサルコペニアについて〉
■宮崎先生は、高齢者の筋肉量が減少し脂肪が増加する「サルコペニア肥満」を危惧。カロリー制限をする際には、たんぱく質の摂取の確保が必須であることを語った。
■佐々木先生は、高齢者のやせすぎを防ぐために、食事摂取基準におけるBMIの下限が高めに設定されていることを説明し、筋肉を保持するためのたんぱく質摂取量の充足が必要であると注意を促した。
〈効果的な運動療法について〉
■宮地先生は、健康寿命延伸には、有酸素性運動とレジスタンス運動の組み合わせが最善であるものの、それぞれの効用が異なることを説明。減量と糖尿病の予防•改善には有酸素性運動、サルコペニアを伴う肥満の予防には、筋量を増やすレジスタンス運動が有効であると語った。
また、減量指導の一環として身体活動量を客観的に把握することの重要性を語り、スマートフォンに搭載されている歩数計や活動量計の活用を勧めた。
〈健康寿命延伸に向けた、日本型食生活の役割について〉
■佐々木先生は、塩分を含まないごはんを低塩食として活用することを勧めた。また、ごはんを中心とした食事はバラエティが豊富で、個人の嗜好に合った食事の提案が可能であることも、メリットとして紹介した。
■宮崎先生は、食事制限では間食をやめることが第一歩であることを説明。腹持ちのよいごはんを三食食べる習慣をつけることで、間食をなくす指導により健康を目指す減量が実現すると語った。
■最後に座長の門脇先生から、本サミットのまとめとして、日本型食生活が日本人の健康を支え、世界でも評価を得ている食のスタイルであると説明があった。食事と合わせ、身体活動を活発化することで、健康寿命延伸につながると話された。
〈開 催 概 要〉
日 時:2016年11月10日(木)13:30~17:00
会 場:日本医師会館大講堂(東京都文京区本駒込2-28-16)
テーマ:「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」
主 催:公益社団法人日本医師会 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構
後 援:農林水産省 一般社団法人埼玉県医師会 公益社団法人千葉県医師会
公益社団法人東京都医師会 公益社団法人神奈川県医師会 一般社団法人山梨県医師会
一般社団法人日本血栓止血学会 特定非営利活動法人日本高血圧学会
一般社団法人日本循環器学会 一般社団法人日本心臓病学会
一般社団法人日本腎臓学会 一般社団法人日本体力医学会 一般社団法人日本糖尿病学会
一般社団法人日本動脈硬化学会 一般社団法人日本内科学会 一般社団法人日本肥満学会
公益社団法人日本栄養士会 特定非営利活動法人日本栄養改善学会
公益社団法人日本栄養・食糧学会 一般社団法人日本臨床栄養学会
内 容:
基調講演
講演Ⅰ 食事摂取基準 -栄養管理のコアとしてのガイドライン
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
講演Ⅱ 糖尿病の成因とその予防、治療のための健康的な食事と運動の勧め
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授 門脇 孝先生
講演Ⅲ 肥満の予防と肥満症治療のための食事管理
公益財団法人結核予防会 総合健診推進センター所長 宮崎滋先生
講演Ⅳ 肥満や糖尿病の予防・改善のための身体活動•運動
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長
宮地元彦先生
〈パネルディスカッション〉
テーマ:健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割
座 長:東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授 門脇孝先生
パネリスト:
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
公益財団法人 結核予防会 総合健診推進センター 所長 宮崎滋先生
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長
宮地元彦先生
(50音順)
この件に関するお問い合わせ先は公益社団法人米穀安定供給確保支援機構まで(電話03-4334-2160)若しくは「食育健康サミット2016」広報事務局<電通PR内 担当:戸高>まで(電話03-5565-8487)。
これは、医師、栄養士などの方々を対象に毎年開催されるサミットで、本年度は「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」をテーマに開催した。東京大学大学院医学系研究科糖尿病•代謝内科教授の門脇孝先生など4人の専門家による最新の研究を基にした講演とパネルディスカッションを実施。会場に集まった参加者は、肥満症や糖尿病の治療にあたる医師や栄養士など655人で、熱心に講演に耳を傾ける姿が見られた。
テーマ「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」について
健康寿命とは、健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間を意味する。健康寿命延伸のためには、循環器疾患や糖尿病などの生活習慣病の予防が重要とされ、生活習慣病の主なリスクファクターとして肥満が挙げられる。肥満の予防には生活習慣、特に身体活動•運動と食事の管理が重要になってくる。
食事は、個人の身体状況や嗜好性などを考慮して、楽しみながら実践し、継続していけるよう、安全で、食文化や食習慣にも配慮することが大切だ。そこで、本年度の食育健康サミットでは、健康寿命延伸にむけて、肥満、糖尿病の予防、重症化予防のため、身体活動•運動の役割と適正なエネルギー量で、適正なエネルギー産生栄養素のバランスを図る食事を提供できる日本型食生活の役割について考えた。
〈基 調 講 演〉
4人の専門家を講師に招き、肥満、糖尿病の予防・重症化予防を目的とした、食事の管理と身体活動•運動について、各分野における最新の研究結果、日ごろの診療や栄養指導•運動指導に有用なデータを紹介いただいた。
講演Ⅰ
テーマ:食事摂取基準 -栄養管理のコアとしてのガイドライン
講 師:東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
内 容:厚生労働省から発表されている「食事摂取基準」は、栄養管理の基盤となるガイドラインである。最新版の『日本人の食事摂取基準(2015年版)』では、エネルギー管理はこれまでのエネルギー必要量からBMI※の変化で管理することに変更された。どのくらいのBMI が望ましいのか、BMI と総死亡率との関連を調べた疫学研究を参考にして、目標とするBMIが年齢階級別に定められている。BMIの望ましい数値の上限はどの年齢でも24.9以下であるが、下限は年齢で異なり、70歳以上の高齢者では21.5以上と高めに設定されている。※ BMI(body mass index)=体重(㎏)÷身長(m)2
日本人の栄養素摂取の課題は、食物繊維の不足と食塩の過剰摂取である。食物繊維の充足のためには、きちんと穀類や野菜、果物を摂取することを推奨する。また、食塩摂取量はここ30年で大きな変化が見られていない。高血圧の予防•改善のためにも、一段の減塩対策を行ってほしい。
栄養指導•食事管理においては、「PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル」に基づく運用を勧めている。対象者の食事摂取状況の把握と評価を行い、個人に適したプランを策定し、より良い方向に導いていただきたい。
講演Ⅱ
テーマ:糖尿病の成因とその予防、治療のための健康的な食事と運動の勧め
講 師:東京大学大学院医学系研究科糖尿病•代謝内科教授 門脇孝先生
内 容:日本における糖尿病患者数は950万人で、予備群を含めると2,050万人。糖尿病の予防•治療には、原因である肥満と内蔵脂肪蓄積の改善が必要である。
糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病性腎症など合併症を発症しやすい。また、糖尿病患者の多くは高齢者であることから、筋肉量が減少するサルコペニアにも注意が必要である。
予防と治療には、「運動と食事」による体重管理が効果的で、3~5%体重を減らすことより血糖値だけでなく血圧、中性脂肪等の血液中の脂質も改善される。日本肥満学会では、3kgの減量、3cmのウエスト周囲径の短縮を提唱する「サンサン運動」を展開している。
食事療法のガイドラインとして、栄養素の摂取比率は、炭水化物がエネルギーの50~60%、たんぱく質が約20%以下、残りを脂質とするが、その比率は個人の病態や嗜好、年齢に応じて考慮が必要である。
高脂肪食、特に肉等の飽和脂肪酸の多い食事は、レプチンというエネルギー消費を促進するホルモンの働きが弱くなり肥満を促進するが、通常の日本食では、多少の過食があったとしてもレプチンがきちんと分泌され、肥満を抑制している。運動療法では、インスリンの感受性を高める歩行等の有酸素運動と、スクワット等のレジスタンス運動(筋力を鍛える運動)の組み合わせを勧める。
講演Ⅲ
テーマ:肥満の予防と肥満症治療のための食事管理
講 師:公益財団法人結核予防会 総合健診推進センター所長 宮崎滋先生
内 容:「肥満症診断ガイドライン2016」では、「肥満」と「肥満症」を区別している。「肥満」の定義は、BMIが25以上で脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積している状態である。「肥満症」は肥満に起因して糖尿病や脂質異常症など健康障害を合併している治療すべき肥満を指す。さらにBMI35以上の肥満症を「高度肥満症」としている。
肥満症の治療の基本は食事療法で、6カ月かけて3%の体重減を目指す。減量の計算では、脂肪組織1kgを約7,200kcalと置き替える。1日に300kcalを削減すると1カ月で体脂肪1㎏の減量が可能である。
減量のための食事では、筋肉が減少するタイプの肥満「サルコペニア肥満」を避けるため、たんぱく質の摂取量を確保してほしい。また、炭水化物の制限は、長期的に見ると心筋梗塞など疾病のリスクを高めるので好ましくない。
ごはんを中心とした食事は、低エネルギーでいて満腹感が得られ、魚や野菜と組み合わせたバランスのよい献立を作りやすい。ごはんは食事誘発性熱産生を高めるという報告もあり、減量のための食事として推奨する。
講演Ⅳ
テーマ:肥満や糖尿病の予防・改善のための身体活動•運動
講 師:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長 宮地元彦先生
内 容:運動•身体活動は、糖尿病の予防のみならず治療においても有効であることが多くの介入研究から証明されている。
糖尿病患者のための運動療法として、有酸素性運動にレジスタンス運動(筋力を鍛える運動)を組み合わせることが有効で、歩く等の中強度の運動を1日に20分~60分程度、少なくとも週に3日程度行うことを目安にしている。とはいえ、運動習慣を確立するのはむずかしい。意図をもって、余暇時間に計画的に行う運動だけでなく、家事や通勤歩行等の生活活動を含めた身体活動を増やす支援をしていくことが重要になる。厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」において、今より毎日10分多く体を動かす「+10(プラス•テン)」を提案している。
中高年の方が減量をする際には、筋量あるいは筋力が低下しないように留意してほしい。筋量の向上には高強度、筋力の向上には中強度のレジスタンストレーニングが有効である。実施には、①鍛える筋や関節を意識して、②辛いと感じる程度で限界までやらない、③最低でも週2回、できれば毎日、④呼吸をとめずに、⑤体調の悪い時には、無理をせず、⑥疾患や痛みがあったら医師に相談をすることを念頭に実施してほしい。推奨できる種目は、スクワット、腕立て伏せ、上体起こし、上体反らしの4つが挙げられる。
〈パネルディスカッション〉
「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防•重症化予防-日本型食生活の役割」をテーマにしたパネルディスカッションは、参加者から寄せられた質問に、4人の先生がそれぞれの分野の知見に基づき回答をするスタイルで討議を進行した。主な発言要旨である。
〈糖質制限食について〉
■佐々木先生は、糖質制限食(炭水化物:全体のエネルギーの約45%、脂質:約40%、たんぱく質約15%)と脂質制限食(脂質:全体のエネルギーの約20~25%、炭水化物:約60~65%、たんぱく質約15%)の比較調査において、どちらの方法でも同じエネルギー量であれば、同様に減量効果が見られたことを紹介された。
■宮崎先生は、日本人の平均寿命延伸の背景に、ごはんを基本とした日本型食生活があることを説明。糖質制限食により食事内容が高脂質食になり、心筋梗塞などの疾病リスクが高まることを懸念した。
〈食事で野菜を先に食べる食事法の有効性について〉
■佐々木先生は、食事で野菜を先に食べると血糖値の上昇が抑えられるという研究がある一方、一つの食材をまとめて食べることで、早食いの傾向になることを指摘。ゆっくり食べる人ほど糖尿病罹患者が少なくなるという調査結果に触れ、時間をかけてごはんとおかずを交互に食べる“三角食べ”が持つ健康効果を紹介した。
■座長の門脇先生は、食後の血糖上昇を防ぐ点からも、食物繊維摂取量を増やすことの重要性、よく噛んで食べる習慣のメリットを話された。
■宮地先生は、よく噛む人は食後の食事誘発性消費量が増えるという研究結果に触れ、ひとくちで20回以上噛む習慣を勧めた。
〈減量指導の目標について〉
■宮崎先生は、患者さんに対してたんに痩せることだけを目的にせず、医療としての減量を提案することの大切さを語った。肥満自体の解消は難しくても、肥満に伴う健康障害の改善を第一の目標に現体重の3%の減量を行う提案がなされた。
〈肥満症とサルコペニアについて〉
■宮崎先生は、高齢者の筋肉量が減少し脂肪が増加する「サルコペニア肥満」を危惧。カロリー制限をする際には、たんぱく質の摂取の確保が必須であることを語った。
■佐々木先生は、高齢者のやせすぎを防ぐために、食事摂取基準におけるBMIの下限が高めに設定されていることを説明し、筋肉を保持するためのたんぱく質摂取量の充足が必要であると注意を促した。
〈効果的な運動療法について〉
■宮地先生は、健康寿命延伸には、有酸素性運動とレジスタンス運動の組み合わせが最善であるものの、それぞれの効用が異なることを説明。減量と糖尿病の予防•改善には有酸素性運動、サルコペニアを伴う肥満の予防には、筋量を増やすレジスタンス運動が有効であると語った。
また、減量指導の一環として身体活動量を客観的に把握することの重要性を語り、スマートフォンに搭載されている歩数計や活動量計の活用を勧めた。
〈健康寿命延伸に向けた、日本型食生活の役割について〉
■佐々木先生は、塩分を含まないごはんを低塩食として活用することを勧めた。また、ごはんを中心とした食事はバラエティが豊富で、個人の嗜好に合った食事の提案が可能であることも、メリットとして紹介した。
■宮崎先生は、食事制限では間食をやめることが第一歩であることを説明。腹持ちのよいごはんを三食食べる習慣をつけることで、間食をなくす指導により健康を目指す減量が実現すると語った。
■最後に座長の門脇先生から、本サミットのまとめとして、日本型食生活が日本人の健康を支え、世界でも評価を得ている食のスタイルであると説明があった。食事と合わせ、身体活動を活発化することで、健康寿命延伸につながると話された。
〈開 催 概 要〉
日 時:2016年11月10日(木)13:30~17:00
会 場:日本医師会館大講堂(東京都文京区本駒込2-28-16)
テーマ:「健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割」
主 催:公益社団法人日本医師会 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構
後 援:農林水産省 一般社団法人埼玉県医師会 公益社団法人千葉県医師会
公益社団法人東京都医師会 公益社団法人神奈川県医師会 一般社団法人山梨県医師会
一般社団法人日本血栓止血学会 特定非営利活動法人日本高血圧学会
一般社団法人日本循環器学会 一般社団法人日本心臓病学会
一般社団法人日本腎臓学会 一般社団法人日本体力医学会 一般社団法人日本糖尿病学会
一般社団法人日本動脈硬化学会 一般社団法人日本内科学会 一般社団法人日本肥満学会
公益社団法人日本栄養士会 特定非営利活動法人日本栄養改善学会
公益社団法人日本栄養・食糧学会 一般社団法人日本臨床栄養学会
内 容:
基調講演
講演Ⅰ 食事摂取基準 -栄養管理のコアとしてのガイドライン
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
講演Ⅱ 糖尿病の成因とその予防、治療のための健康的な食事と運動の勧め
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授 門脇 孝先生
講演Ⅲ 肥満の予防と肥満症治療のための食事管理
公益財団法人結核予防会 総合健診推進センター所長 宮崎滋先生
講演Ⅳ 肥満や糖尿病の予防・改善のための身体活動•運動
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長
宮地元彦先生
〈パネルディスカッション〉
テーマ:健康寿命延伸にむけた、肥満、糖尿病の予防・重症化予防-日本型食生活の役割
座 長:東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授 門脇孝先生
パネリスト:
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授 佐々木敏先生
公益財団法人 結核予防会 総合健診推進センター 所長 宮崎滋先生
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康増進研究部長
宮地元彦先生
(50音順)
この件に関するお問い合わせ先は公益社団法人米穀安定供給確保支援機構まで(電話03-4334-2160)若しくは「食育健康サミット2016」広報事務局<電通PR内 担当:戸高>まで(電話03-5565-8487)。