知恵と汗と感性の結晶に!
逆境を乗り越えて咲く花は
どの花よりも貴重で美しい
2015.09.04
ここ2、3年飲食を含めたサービス業はこの上なく辛い状況だ。それでも敢えていうならば、低価格を追求したお店とか、鮮度を少しアピールしているお店などがやや輝いている程度だ。勿論、大、中、零細問わずである。
3、4年前からスキー場にあるレストランに年に数回程訪れている。行く度に思うことは「三人寄れば文殊の知恵」という表現がズバリのお店である。天橋立(京都府宮津市)にある知恩寺(文殊堂)は、智慧を授ける菩薩がある。店主も奥さんもご両親も参詣、参拝をしたのだろうか。
このお店は竜王スキー場(山ノ内町)にある石臼挽き蕎麦香房「山の実」である。雨が降っていても台風が来ていても、同店だけはお客様が来店している。お目当ては青みのかかったお蕎麦とそばがき、そして須賀川そばピッツァであろう。
このそれぞれのメニューがコース(2,100円)で提供されている。消費税が上がる前は2,000円だった。まずは布のコースターで茶が提供される。前菜は地元の野菜等のお浸し、続いて「手挽きそばがき」が提供される。青豆とそば粉で練ったそばがきは山葵と塩で食すが、新鮮さと食欲を誘い、香りと甘み、食感が味わえる。このそばがきは須賀川の「はやそば」をひと工夫しシンプルに仕上げたとお見受けする。
続いてメインの「生粉打ち蕎麦」(きこうちそば)は、水と蕎麦粉だけで打った青みのかかった蕎麦で、根曲がり竹のざるで提供される。何度も食すがいつも水気は切れていて、新鮮さを感じさせる。このそば粉は地元の須賀川産ではなく、ご主人の出身の富山産(南砺戸賀そば)を使っているようだ。春から秋にかけて同店では、低温貯蔵で管理された「そばの実」を皮むきからの地粉で打っているものと思われる。
写真を見るように最後は須賀川そばピッツァ(えのき茸のトッピング)。須賀川の地粉を使った蕎麦生地と小麦粉、モッツァレラチーズにそれぞれのトッピングがされ、店内入口近くにあるピッツァ釜で焼かれる。そば粉とバランスのとれたピッツァに仕上がっている(1人用1/4サイズ、2人用1/2サイズ、4人用が通常サイズ)。この他に季節のピッツァ(旬の野菜4種とベーコン•トマトソース)も選べる。
コース料理のみならず、単品で生粉打ち蕎麦、手挽きそばがき、そばがき甘味、そして石窯焼きそばピッツァのアンチョビや信州りんごのピッツァなども揃えている。そばがき甘味(550円)を少し触れると、細かく挽いたそば粉を使用し、もっちりと挽いた滑らかなそばがきに仕上がっており、これに長野県産青豆のきな粉で召しあがる。珈琲との相性も良い組み合わせとなろう。
店内はアンティークな調度品、雑貨類、マントルピースやピッツァ釜が置かれたレストランで、冬はスキー場のレストハウス(ホリデーインのレストラン)、4月から11月は石臼挽き蕎麦香房「山の実」として人気を博している。
スキー場の賑わいも往年の3分の1以下、リゾート地としても北志賀竜王高原は中途半端な状況。オフシーズンの入り込み客もほんの僅かである。逆境を乗り越える決断は「商いの通年化」を整えることだった。お店のメニューを単に紹介しているが、ここまでたどり着くには知恵と汗と感性の結晶が深く盛り込まれている。途中ドロドロした闘いや葛藤もあったであろう。それだけに咲いた花はどの花よりも貴重で美しくもある。